60.救援
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森の奥。
空へ打ち上がった緊急信号を見た瞬間、俺は足を止めていた。
赤い閃光。
教師用の救難信号。
つまり、想定外の事態が起きたということだ。
次の瞬間には、俺の姿は木々の間を駆け抜けていた。
地面を蹴る。
枝を飛び越える。
風が唸る。
視界の端を木々が流れていく。
やがて。
戦闘跡へ辿り着いた。
地面は抉れ、木々は焼け、血の臭いが漂っている。
そこにいたのは、汎用魔術学院の教師――エルフィナだった。
ローブには裂傷。
息も少し乱れている。
「あなたは!?」
「状況は」
短い問い。
エルフィナはすぐ答えた。
「変異種を撃退しましたが、生徒班が一つ戻っていません。第七班です」
一瞬。
俺の目が細くなる。
「最後の確認位置は?」
「あちらの方だったかと。ただ、猿型魔物に荷物を奪われ――」
そこまで聞いた瞬間、俺は視線を森へ向けた。
「探す」
短く言う。
そして。
俺は探知魔法を発動した。
可視光ではない。
目にはほとんど見えない赤外線。
それを感知する魔法だ。
薄く。
広く。
霧のように森へ拡散していく。
俺は目を閉じた。
脳内へ情報が流れ込む。
木々。
小動物。
魔物。
地熱。
生き物は熱を持つ。
ならば位置は分かる。
森全体へ広げた赤外線が、周囲の温度差を拾っていく。
人型反応。
複数。
教師たち。
援軍。
そして――
「……いた」
通常探索範囲を逸脱した場所。
複数の人型反応。
その瞬間。
異常な高熱反応が広がった。
俺の表情が変わる。
「っ……!」
地面を蹴る。
加速。
木々を裂く勢いで駆け抜ける。
(暴発か)
嫌な予感が脳裏をよぎる。
数十秒後。
俺は現場へ飛び込んだ。
焦げた地面。
倒れた変異種。
呆然としている生徒たち。
そして。
地面へ倒れているミハイル。
「先生!!」
レティアが声を上げる。
俺は返事をしない。
即座に膝をつき、ミハイルの状態を確認する。
呼吸。
脈。
瞳孔。
皮膚損傷。
熱傷。
光魔法による内部損傷の兆候。
手際に迷いはない。
俺は術式を展開する。
空気中の水分を強引に集め、水を生み出した。
その後、光を収束させた。
淡い紫外線。
傷口へ照射する。
焼けた皮膚を冷却。
感染防止。
壊死確認。
次々と処置を進める。
その動きは、教師というより医者のそれに近い。
俺はミハイルの首筋へ手を当てる。
静かに目を閉じる。
数秒後。
小さく息を吐いた。
「……生きてる」
その瞬間。
第七班全員の肩から力が抜けた。
アレスはその場へ座り込む。
「よ、よかった……」
レティアも目を閉じた。
俺はミハイルを見る。
皮膚は爛れている。
痛々しい。
だが。
生きていた。
ミハイルが薄く目を開ける。
意識は朦朧としている。
「……せん、せい」
掠れた声。
俺は静かに答えた。
「喋るな」
ミハイルは苦しそうに息をする。
「……みんなは」
「生きてる」
その言葉を聞いた瞬間。
ミハイルの身体から少しだけ力が抜けた。
俺はそんな姿を見下ろし――
小さく言った。
「……よくやったな」
その声だけは。
いつもより少しだけ、柔らかかった。
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