51.死の危険
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実験棟の空気は、前より少しだけ重かった。
いつもの放課後。
机の上には、紙とペン。
そして今日は、少しだけ違う図が並んでいる。
ソロモン先生は、淡々とそれを見ていた。
「今日は“使い方を間違えると死ぬ魔法”をやる」
「……え?」
思わず声が出た。
先生はこっちを見ないまま続ける。
「今まで教えたのは、安全寄りだ」
「逃げる・隠す・生き残る」
「だが現場ではそれだけじゃ足りない」
紙を一枚指で弾く。
そこに描かれているのは、光球の術式。
ただし、少し形が違う。
「これは何ですか?」
「通常の光球を少し改造したものだ」
「何が違うんですか」
「明るさを一点に寄せている」
僕は眉をひそめる。
「それって……攻撃用ですか?」
「そうだ」
一拍。
「ただし、使い方を間違えると危険になる」
ソロモン先生は立ち上がる。
「発動してみろ」
「えっ」
「安心しろ。前方にしか効果はない」
そう言われても、手は少し震えた。
術式をなぞる。
いつもより“圧縮”の感覚が強い。
光を一点に集める。
発動。
瞬間。
小さな光が生まれた。
しかし──
「っ……」
眩しい。
今までの光球よりも、はっきりと刺さる。
目が一瞬だけ焼けるような感覚。
「……これ」
「前方集中型だ」
ソロモン先生の声は冷静だった。
「正面から目に入れれば、一時的、あるいは永続的な視界喪失を狙える」
僕は息を呑む。
「それって……危なくないですか?」
「危ない」
即答だった。
「だから教えている」
一拍。
「現場では、相手は待ってくれない」
ソロモン先生は光を見ながら続ける。
「だがこれを“適当に使うと”どうなる?」
僕は少し考える。
「……自分や味方にも当たる」
「そうだ」
「距離を間違えれば味方を潰す」
「角度を誤れば自分が失明する」
喉が乾く。
「つまり」
「便利な武器だが、雑に扱うと自分を殺す」
先生は淡々と結論を出す。
僕は光を見つめたまま動けない。
「怖いですね……」
「怖がるのはいい」
一拍。
「ただし、使わない理由にはするな」
その言葉が、少しだけ重かった。
ソロモン先生は次の紙を取り出す。
「次は別の応用だ」
「紫外線寄りの光だ」
「殺菌用途」
僕は思わず顔を上げる。
「……殺菌?」
「そうだ」
「ただし、これも扱いを間違えると皮膚を壊す」
淡々とした説明。
まるで日用品の話みたいだった。
でも、さっきの光の刺さる感覚がまだ残っている。
冗談ではないと分かる。
「先生は……」
言いかけて止める。
ソロモン先生がこちらを見る。
「なんだ」
「いえ……」
一瞬迷ってから言う。
「これ、全部実戦で使ったことあるんですか」
少しだけ間があった。
「ある」
短い返事。
それ以上は語られない。
でも、それで十分だった。
僕は紙を見つめる。
今までの“綺麗な光魔法”とは違う。
同じ光なのに、まるで別物だ。
「今日はここまでだ」
ソロモン先生が机を片付ける。
僕は顔を上げる。
部屋の明かりが戻る。
いつもの実験棟。
でも、さっきまでと同じ場所には思えなかった。
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