41.ミハイル
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訓練場。
学院の生徒であるこの僕、ミハイルは教師ラスモディウスと実技訓練を行っていた。
「もう一度だ」
低い声。
僕は小さく頷き、杖を握り直す。
深呼吸。
術式を思い出す。
教本通り。
一字一句間違えていない。
何度も暗記した。
何度も復唱した。
間違いない。
「──光球形成」
魔力を流す。
術式は正常。
構築も成功。
のはずだった。
だが。
ぼふっ。
小さな音と共に、光球が歪む。
輪郭が崩れる。
一瞬だけ発光し、そのまま霧散した。
沈黙。
「……またか」
教師ラスモディウスが眉を寄せる。
周囲の空気が少しだけ重くなった。
僕は杖を握ったまま、小さく俯く。
「術式は合っています」
思わず口をついて出た。
だが。
「だから問題なのだ」
教師の声は冷たい。
「術式は正確だ」
「詠唱も間違っていない」
一歩近づいてくる。
「なのになぜ失敗する?」
「……」
答えられない。
僕にも分からないからだ。
ちゃんとやっている。
教本通りに。
言われた通りに。
なのに、うまくいかない。
「全く、お前みたいな生徒は初めてだ」
ラスモディウスは続ける。
「優秀すぎる問題児よりはマシだが」
「魔法が上手く使えんのではなぁ」
その言葉が妙に胸へ刺さった。
「ですが……術式は……」
「術式は合ってても、魔法が発動せんのなら意味はない」
一喝。
訓練場が静まり返る。
「とにかく、原因を調べんことには始まらん」
周囲では他の生徒たちが淡々と術式を完成させている。
綺麗な光。
安定した形。
模範的な魔法。
僕だけがうまくいかない。
「今日はもういい」
教師が背を向ける。
「基礎訓練へ戻れ」
「……はい」
口から出た返事は、ほとんど反射だった。
訓練場から離れる。
背中へ視線が刺さる。
「また失敗してる」
「術式は綺麗なのにな」
「逆にすごくないか?あそこまで完璧なのに発動しないの」
「座学だけなら優秀なんだけどなぁ……」
聞こえないふりをする。
慣れている。
学院は優秀な人間ばかりだ。
少しでも遅れれば、すぐに置いていかれる。
廊下を歩く。
窓から差し込む光がやけに白かった。
(向いてないのかな)
そんなことを考えてしまう時点で、もう駄目なのかもしれない。
「おい、聞いたか?」
前を歩いていた生徒たちの声が聞こえる。
「例の臨時講師」
「あー、学院長が呼んだってやつ?」
「なんかヤバい人らしいぞ」
自然と足が少し止まる。
「ヤバいって?」
「昔この学院にいた卒業生で、教師と決闘したとか」
「研究棟を半壊させたとか」
「怖すぎだろ……」
笑い声。
だが半分は本気で引いている声だった。
「名前なんだっけ」
「さぁ…でも付いた二つ名は知ってるぜ」
「異端の光魔法使い」
一瞬。
その名前だけが妙に耳に残る。
「聞いたことあるかも」
「光で人体に影響を与える実験ばっかりやってたんだとか」
「何それ」
「相手の見てる景色を曲げてしまうんだとか」
「うわ……」
「しかも教師相手に実演したらしい」
「嫌すぎる」
生徒たちは好き勝手に盛り上がっている。
僕は小さくため息をついた。
(また変な教師か……)
学院にはたまにいる。
実力はあるけど性格に難があるタイプ。
そういう教師ほど、生徒を振り回す。
「しかも現場主義らしいぞ」
「マジ?」
「実戦で使えない光魔法は意味ないとか何とか」
「うわ、絶対面倒くさい」
その会話に、別の生徒が割り込む。
「でもちょっと見てみたくね?」
「本物の現場型魔法使いって感じじゃん」
「まぁ……それは少し分かる」
興味と不安が混ざった空気。
学院では珍しくない。
だが今回は妙にざわついていた。
「教師陣も揉めてるらしいぞ」
「“あんな危険人物を学院に入れるな”って」
「そりゃそうだろ……」
僕は壁に寄りかかる。
窓の外を見る。
中庭では上級生たちが訓練していた。
綺麗な光。
整った術式。
無駄のない動き。
(僕とは違うな)
そんなことを考えていると──
ふと、廊下の奥が静かになった。
ざわついていた空気が、少しだけ止まる。
視線が集まっている。
「……?」
なんとなくそちらを見る。
廊下の向こう。
一人の男が歩いていた。
無表情。
特に威圧感があるわけでもない。
男は歩きながら、窓から差し込む光を一瞬だけ見上げる。
その仕草だけで、なぜか目が離せなかった。
すれ違った教師が、一瞬だけ表情を強張らせる。
男は気にしない。
そのまま通り過ぎていく。
それだけ。
本当にそれだけだった。
なのに。
なぜか背筋が寒くなった。
「おい……」
近くの生徒が小さく声を漏らす。
「あれ……誰だ?」
別の生徒が乾いた声で答えた。
「さあ?でも、もしかしたら……」
「異端の光魔法使いじゃないか?」
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