39.懐かしい記憶
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馬車はゆっくりと街道を進んでいた。
木製の車輪が地面を叩く音。
一定ではない揺れ。
時折、車体ごと跳ねるような衝撃が混ざる。
だがその振動も、長時間続けば感覚は鈍る。
俺は窓際に座ったまま、静かに目を閉じていた。
膝の上には学院から届いた封書。
光輪の校章。
見慣れていたはずの紋章。
段々と、意識が沈んでいく。
揺れが遠くなる。
音が薄れる。
斎藤 光。
日本という国で生きていた、ただの人間だった。
昔から調べものが好きな知識オタクだった。
漫画。
アニメ。
ゲーム。
その中でも、電気を操る能力者に強く惹かれていた。
雷。
電流。
光。
目に見えないものを操る力。
「電磁波って、結局なんなんだろうな」
中学生だった光は、そう思った。
だから調べた。
そして知る。
電磁波とは、太陽が出してるものの総称だということを。
可視光。
赤外線。
紫外線。
電波。
マイクロ波。
X線。
ガンマ線。
全部が同じ“電磁波”であり、波長の違いでしかない。
太陽は、そのすべてを放っている。
人間はそのうち、ごく狭い範囲だけを“光”として見ている。
それを知った瞬間。
世界が変わった。
(太陽って、そんなものまで出してるのか)
ただの知識だった。
だが、光にはそれが妙に面白かった。
目に見えないもの。
でも確かに存在しているもの。
それらを理解したいと思った。
そしていつかはそれらを扱う仕事につきたいと、願うようになった。
そしていつものように調べた。
それらを扱う仕事にはどんなのがあるのか…
医療、通信、軍事、天文学、研究職…
医者か研究職かで悩んだが、どうせなら人に直接感謝される仕事がいいと思った。
だから医者を目指した。
医学。
人体構造。
神経伝達。
視覚情報。
知れば知るほど面白かった。
知識を覚えることは苦ではない。
むしろ快感に近かった。
おかげで成績は良かった。
大きな問題も起こさなかった。
少なくとも表面上は。
そして。
斎藤光は医学部へ進学し、そのまま卒業する。
夢だった医者になった。
白衣。
病院。
消毒液の匂い。
蛍光灯の光。
夜勤明けの朝焼け。
それらが、ぼんやりと流れていく。
「おーい、学術研究都市ミネルヴァに着いたぞ!兄ちゃん」
声。
肩を軽く揺すられる。
ソロモンはゆっくりと目を開けた。
馬車の中。
揺れは止まっている。
御者が苦笑していた。
「ずいぶん深く寝てたな」
意識がまだ夢の側に残っていた。
「……患者か?」
「は?」
御者が首を傾げる。
「……いや、何でもない」
小さく息を吐く。
(また随分と懐かしい夢を見たもんだ…)
窓の外を見る。
そこには学院都市が広がっていた。
かつて見慣れていた景色。
だが。
「……変わったな」
昔より建物が増えている。
外壁も新しい。
見覚えのない塔まで建っていた。
ゆっくり馬車を降りる。
風が吹く。
懐かしい匂い。
俺はしばらく周りを見渡した後、学院へ向かって歩き出した。
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