38.指名依頼
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昼のギルドは、相変わらず騒がしかった。
酒場では冒険者たちが好き勝手に騒ぎ、受付では依頼の処理が続いている。
そんな中。
俺の下に届いた、一枚の封書をじっと見ていた。
受付嬢が首を傾げる。
「どうしたんです?」
「俺への指名依頼だ」
「へぇ、珍しいですね。誰からです?」
俺は封を裏返す。
そこに刻まれている紋章。
古い光輪を模した校章。
「母校」
一瞬。
受付嬢の動きが止まる。
「……母校?」
近くで酒を飲んでいたヴェルナも顔を上げた。
「お前、学校通ってたのか」
「失礼だな」
「いや、だってお前だぞ?」
「意味が分からない」
ヴェルナは本気で理解できない顔をした。
俺が集団生活をしている光景が想像できないらしい。
受付嬢も同じ顔をしている。
「え、どんな学校だったんですか?」
「光魔法学院」
「学院!?」
ギルドの空気が少しざわつく。
光魔法学院。
国でも上位層しか入れない超エリート校だ。
ヴェルナが眉をひそめる。
「マジかよ」
「成績は悪くなかったぞ」
「そこじゃねぇんだよ」
俺は封書を開く。
中身を一通り読み終えると、小さく呟いた。
「臨時講師依頼か」
「絶対断れ」
ヴェルナが即答する。
「なぜだ」
「お前が教師とか怖すぎる」
受付嬢が少し身を乗り出す。
「でもちょっと気になりますね……学生時代のソロモンさん」
「気になるか?」
「なりますよ!」
俺は少し考える。
「普通だったと思うが」
「絶対嘘だな」
ヴェルナが断言した。
俺は気にせず続ける。
「教師とはよく議論した」
「議論?」
「光魔法を用いて効率的に相手の眼球を狙う方法と、その際の相手の脳への影響とかな」
沈黙。
受付嬢の笑顔が固まる。
「……はい?」
「直視した際の一時的な失明時間の平均を調べようとクラスメイト全員を実験に使おうとしたら止められた」
「当たり前です!!」
「安全性は確認していた」
「そういう問題じゃない!」
ヴェルナが頭を押さえる。
「お前昔からそんな感じだったのか……」
「あと、一度教師と決闘騒ぎになった」
「ほら見ろ!!」
俺は淡々と続ける。
「授業内容が非効率だったので、実演した方が早いと言った」
「で?」
「教師が怒った」
「そりゃ怒るだろ」
「だから決闘形式になった」
「なんでだよ」
受付嬢は半笑いで呟く。
「学院側も大変だったでしょうね……」
俺は少しだけ考える。
「あとは、相手の視界を操作する実験もしていたな」
「嫌な予感しかしない」
「いじめ行為の抑止に有効だった」
一瞬、静かになる。
ヴェルナが目を細めた。
「……何した?」
「相手の眼球ギリギリに薄い光の膜を作り、視界をぼやけさせたり、光の屈折率を調整して、対象付近の空間認識を少し歪めた」
「少し?」
「廊下を真っ直ぐ歩けなくなる程度だ」
「十分怖ぇよ!!」
受付嬢が引きつった顔になる。
「それ絶対トラウマになりますよ!?」
「効果は高かった」
「そういう問題じゃないんですよ!」
ヴェルナが呆れたように息を吐く。
「お前、昔から面倒くさいやつだったんだな……」
「そうか?」
「そうだよ」
受付嬢が苦笑しながら言う。
「でも、助けられた人は嬉しかったんじゃないですか?」
「そうか?」
「絶対そうですよ」
俺は本気で分かっていない顔をした。
「俺は実験材料が手に入る、学校はいじめがなくなる、いじめられた生徒は助かるしで誰も損をしないからやっただけだぞ?」
「もし女の子なら絶対惚れてますってそれ」
「なぜ?」
「なぜって……」
受付嬢が言葉に詰まる。
ヴェルナが深くため息をついた。
「……頭痛くなってきた」
俺は気にせず封書を畳む。
「しかし、久しぶりだな」
その声だけが、少しだけ静かだった。
騒がしいギルドの中で。
ほんの一瞬だけ。
俺の視線が、遠い過去を見ていた。
「だからよぉ! ドラゴンってのは羽ばたくだけで木々をなぎ倒すんだって!」
そんな声が、ギルド内に響いた…
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