34.帰還
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帰路の馬車は、行きよりも静かだった。
揺れは相変わらず荒い。
だが、会話の方は落ち着いている。
「結局、珍味はなかったな」
ソロモンが窓の外を見ながら言う。
その声に感情は薄い。
事実の確認だけだ。
向かいのエドは、苦笑した。
「いや、まぁ……あれはあれで珍事だったけどな」
「珍事?」
「聖騎士長とやり合う人間ってのも、なかなかいねぇぞ」
「そうか」
ソロモンは興味なさそうに返す。
エドは少し間を置いてから、ふと思い出したように口を開いた。
「そういやさ」
「ん?」
「お前さん、吸血種と一緒にいたんだって聖騎士長様が言ってたが…」
一瞬、馬車の揺れが強く感じられた気がした。
「……そうだな」
ソロモンは普通に答える。
それ以上でも、それ以下でもない。
エドは顔をしかめる。
「普通に言うなよそれ」
「事実だ」
「事実でもさぁ……」
言いかけて、言葉が止まる。
目の前の男は、恐怖の対象を“分類情報”として扱っているだけだった。
「危ねぇとか思わねぇのか?」
「何がだ」
「吸血鬼だぞ」
ソロモンは少しだけ考える。
「特に問題はない」
「いやあるだろ!!」
エドは頭を抱えた。
「俺の常識が壊れる音がするんだけど」
「商売の話をするか?」
「急に真面目になるなよ」
ソロモンは少しだけ姿勢を正す。
「例えば、人がお金を使う時ってどんな時だと思う?」
「…満足感を得るためか、もしくは欲求が最大に達した時とかか?」
「どれも間違ってはいない…だか、一番は苛ついている時だ。それを解消するために人はお金を使う…らしいぞ」
エドは黙る。
「だから、無料のサービスを提供して、いいところで邪魔をしろ。そこからさきは有料ですってな」
「お前、戦闘よりそっちの方が怖ぇよ」
そんな会話をしているうちも、馬車はそのまま揺れ続ける。
やがて街が見えてくる。
ギルドの建物。
見慣れた場所だ。
「じゃあここで降りる」
エドが先に立ち上がる。
「またどっかで会うかもな」
「そうだな」
短い別れ。
馬車が止まる。
ソロモンはそのままギルドへ向かう。
扉を開けると、いつもの騒がしさ。
奥にいたヴェルナがこちらを見る。
視線が交差する。
数秒。
沈黙。
「生きてたか」
「問題ない」
それだけだった。
互いに無事であることは、最初から疑っていない。
だから驚きもない。
感動もない。
ただ結果だけが共有される。
「聖騎士は?」
「一応、撤退した」
「そうか」
「そっちは?」
「片付けた」
短いやり取り。
ヴェルナは酒を一口飲む。
沈黙。
ギルドは、いつもの騒がしさに戻っていく。
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