33.VSセラフ
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空気が張り詰める。
いや、まるで空間が“圧縮されている”感覚に近い。
街道の中央。
聖騎士長セラフの周囲で、膨大な光が収束していた。
空気そのものが発光している。
地面そのものが、淡く輝き始める。
「……すごいな、おい」
後方でエドが顔を引き攣らせた。
「街道が光ってやがる……」
俺も黙ったまま目を細める。
わかる。
強い。
単純に強い。
この男、間違いなく今まで見てきた人間とは格が違う。
セラフは静かに口を開く。
「吸血種との接触者よ」
光がさらに増幅される。
術式が完成する。
「受けてみよ!」
次の瞬間。
街道全体へ、無数の光槍が展開された。
空。
地面。
左右。
逃げ場を塞ぐように、数百の光が浮かび上がる。
「っ……!」
避け場がない。
範囲制圧型。
しかも一発一発が異常に濃い。
普通なら。
ここで終わる。
だが。
「……なるほど」
興味深そうに術式を見上げている。
そして。
光槍が収縮していく。
街道そのものが吹き飛んだかのような光圧。
エドが悲鳴を上げながら地面へ伏せた。
「うわぁぁぁぁっ!!」
視界が白く染まる。
だが。
その収縮された光の中。
俺は立っていた。
一歩も動いていない。
ただ、その周囲だけ。
光を曲げていた。
光槍が届く直前。
屈折。
偏光。
複数の光学制御によって、術式そのものが逸らされている。
セラフの目が細まる。
「……防いだか」
「防ぐ必要もない」
ソロモンが答える。
「少し曲げただけだ」
セラフが次の術式へ移行する。
速い。
今度は単発。
極限まで圧縮された高密度光。
収束砲撃。
それはまるでレーザーのように空気を焼く。
そして放たれる。
閃光。
ソロモンの頬が浅く裂けた。
血が一筋だけ流れる。
「……っ!」
当たった。
だが。
俺は顔一つ動かさない。
むしろ。
「ほう」
少し嬉しそうだった。
「面白い使い方だな」
分析している。
セラフの眉がわずかに動く。
再び光。
連続砲撃。
高速詠唱。
聖騎士長として積み重ねた人生そのものが、次々と放たれていく。
街道が崩れる。
木々が焼ける。
空気が震える。
だがソロモンは。
曲げる。
散らす。
受け流す。
反撃はしない。
ただ、見ていた。
その時だった。
セラフが低く言う。
「なぜ反撃しない」
ソロモンは少し考える。
「いや」
次の光槍を屈折で逸らしながら答えた。
「せっかく珍しい光魔法だからな」
沈黙。
エドは固まる。
セラフの空気だけが、僅かに変わった。
「……分析でもしているのか?」
「まあ」
俺は普通に頷いた。
「聖騎士の光魔法は初めて見た」
セラフほどの存在との戦闘中に。
研究している。
セラフの周囲の光が膨れ上がる。
今までで最大。
殺意が変わる。
街道全体が発光を始めた。
「ならば」
低い声。
「見せてやろう」
次の瞬間。
空が割れた。
巨大な光柱が天へ伸びる。
圧縮。
増幅。
超高熱。
空気そのものが白く燃える。
だが。
「……その程度か」
完全に。
研究者の顔だった。
光柱が落ちる。
轟音。
世界が白く染まる。
数秒後。
煙の中で。
ソロモンは、静かに頷いた。
「大体理解した」
その瞬間。
空気が変わる。
今まで“観察者”だった男が。
初めて。
セラフへ視線を向けた。
「次はこちらの番だ」
セラフの背筋へ、初めて寒気が走った。
光。
可視光域の中で最も輝度の高い帯域。
純粋な“眩さ”だけを一点に圧縮したものが、セラフの眼球へ向けて放たれる。
「……っ!?」
反射的に手で遮る。
脳が理解する前に、眼球が悲鳴を上げる。
視界が白に焼かれる。
セラフの術式が一瞬だけ歪む。
「っ、ぐ……!」
発動がずれた。
光の柱は空を裂き、雲を貫いていく。
ソロモンはそれを見ても、表情を変えない。
「視覚依存が高いな」
淡々とした分析。
セラフは即座に判断する。
(視認封じか)
だが、上位聖騎士長としての経験がそれを許さない。
即座に片手で視界を覆い、もう片方で術式維持へ移る。
その動作は正しい。
正しいが──遅い。
ソロモンはすでに“次”を置いていた。
セラフの手と眼球の間。
そこに、先ほどと同様の光が生まれる。
「なっ……」
距離ゼロ。
防御の隙間すら存在しない位置に、光が“挟み込まれる”。
再び視界が焼かれる。
今度は回避不能。
セラフの身体が一瞬だけ後退する。
術式が崩れる。
その隙間を、ソロモンは見ていた。
「ふむ」
興味深そうに一度だけ頷く。
だが、それだけだった。
追撃はない。
距離も詰めない。
ただ、評価だけが落ちる。
「思ったより単純だな」
その言葉は、戦闘の中では致命的だった。
セラフの周囲に光が再構築される。
圧が跳ね上がる。
だがソロモンはもう見ていない。
視線は“分析”から“興味の消失”へと移っている。
「光の制御は優れている」
「だが遅すぎる」
「それに光も大したことない」
独り言のように続く。
セラフは視界を回復させながら、その言葉を聞いた。
「貴様……」
怒りではない。
理解不能への反応だった。
ソロモンは軽く手を振る。
「もういい」
一歩下がる。
それだけで、圧が薄れる。
「期待したほどではなかった」
セラフの眉が動く。
「待て」
だが、その声は届かない。
ソロモンは既に興味を切っている。
「時間の無駄だ」
そのまま背を向ける。
戦闘終了の合図すらない。
ただ“観測の打ち切り”だけがそこにあった。
セラフは立ち尽くす。
初めて。
この戦場で。
自分が“見られていない”ことを理解する。
「……ソロモン」
低く呟く。
だがその背中は、すでに遠い。
街道には、ただ風だけが残っていた。
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