32.断罪の光
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光が放たれる。
それは“矢”というより、“断罪の光”だった。
空気ごと押し潰すように一直線に伸び、逃げ道という概念すら許さない。
聖騎士団の一撃。
通常なら、それで終わるはずだった。
だが──
「……っ」
ヴェルナは動かない。
避ける素振りすらない。
光が直撃する。
森の地面が白く焼ける。
視界が一瞬だけ真っ白になるほどの輝き。
静寂。
数秒。
聖騎士の一人が息を吐く。
「……消えたか」
「当然だ。吸血種だぞ」
だが。
その“当然”は、すぐに崩れる。
「おい」
声がした。
すぐ後ろ。
背筋が冷える距離。
全員が一斉に振り返る。
そこに、ヴェルナが立っていた。
「今の……何だ?」
一拍。
誰も理解できない沈黙。
「……なぜ生きている」
監察部隊の男が低く言う。
ヴェルナは肩を回す。
服は焦げていない。
皮膚にも傷がない。
光は確かに命中していた。
それなのに、何も起きていない。
「浄化の光が……効いていない?」
詠唱していた聖騎士の声がわずかに揺れる。
ヴェルナは小さく息を吐く。
「これ、ソロモンの方がまだマシだな」
「……なに?」
その言葉で、空気がさらに重くなる。
リオネルが一歩前に出る。
「再確認する」
「吸血種ヴェルナ」
「浄化対象」
短杖が再び構えられる。
今度は一人ではない。
三方向。
同時詠唱。
光が重なる。
圧が跳ね上がる。
森の音が消える。
鳥も、虫も、息を潜める。
「これで終わりだ」
リオネルの声。
その瞬間──
ヴェルナは剣を軽く握り直した。
「終わるのは、どっちだよ」
踏み込み。
一瞬。
空間が裂けたかと錯覚するほどの鋭い一撃。
次の瞬間、聖騎士の一人が吹き飛ぶ。
「っ……!」
「速い!」
光が再度放たれる。
しかし今度も──
当たる。
それでも。
効かない。
ヴェルナは剣を肩に乗せる。
リオネルの目が細くなる。
「……光耐性ではない」
「完全無効化」
「異常だ」
ヴェルナは軽く首を傾げる。
「勝手に襲ってきて、異常なのはそっちだろ」
次の瞬間。
金属音が森に響く。
一撃、二撃。
ヴェルナの動きは速いが、聖騎士団も崩れてはいない。
訓練された連携。
光魔法と近接の切り替え。
戦場としては“完成されている”。
だが──
「ぐっ……!」
もう一人が吹き飛ぶ。
地面を転がり、木に叩きつけられる。
息はあるが、戦線からは脱落していた。
「戦力低下を確認」
リオネルの声は冷静だった。
焦りはない。
ただ“記録”しているような声音。
「対象戦力、想定以上と判断」
ヴェルナは軽く息を吐く。
「まだやるのか?」
「……いいや」
一瞬。
その言葉だけが、戦場から浮いた。
ヴェルナの眉がわずかに動く。
「逃げるのか?」
リオネルは答えない。
代わりに短杖を握り直す。
「第二手順」
その言葉と同時だった。
光が弾ける。
直視できないほどの閃光。
「っ……!」
ヴェルナの視界が白に染まる。
音も一瞬消える。
感覚が切断されるような異常な干渉。
(目潰しか!)
視界が戻らない。
「今だ」
リオネルの声。
その瞬間、森の外側へ複数の足音。
撤退。
迷いのない動きだった。
「待て!」
ヴェルナが踏み出す。
しかしその一瞬、もう一度光が目を直撃する。
視界が完全に奪われる。
ほんの数秒。
だが戦場では致命的な時間。
音が遠ざかる。
気配が薄くなる。
そして──
静寂。
光が収まる頃には、森にはヴェルナだけが残っていた。
「……逃げたか」
舌打ち一つ。
剣を軽く振り、血の跡を払う。
周囲を見回すが、もう誰もいない。
(情報か)
ヴェルナは目を細める。
(とどめを刺せなかったのは痛いな)
思考が一瞬、別の方向へ逸れる。
「ソロモンの方は……どうなってる」
嫌な予感というよりは、慣れた感覚。
あいつが絡むと、必ず面倒が増える。
ヴェルナは軽く息を吐いた。
「……ま、死んでなきゃいいが」
そう呟いて、森を出る。
一方その頃。
リオネルは森から距離を取りながら歩いていた。
部下は負傷者を抱えて後退。
撤退は完了している。
「報告をまとめる」
静かに呟く。
手元には記録用の術式紙。
そこに淡々と書き込む。
「吸血種ヴェルナ」
「浄化光に対し完全耐性」
「戦闘能力は高いが、決定打は未確認」
一拍。
そして、最も重要な一文。
「通常手段による処理は困難」
リオネルは歩みを止めない。
その目は揺れていなかった。
「……想定外か」
だがその声には、わずかな興味が混じっていた。
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