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光の勇者ソロモン  作者: カルロス
冒険者ソロモン
3/4

3

 広場は、昼の熱気で包まれていた。


 商人の怒鳴り声。荷車の軋む音。焼いた肉の匂いと、果物の甘ったるい香り。


 人が多い。


 笑い声と喧嘩声が混ざり合い、石畳の広場全体が騒がしく揺れていた。


 その隅で、俺はしゃがんでいる。目の前には、一匹の細いヘビ。


 黒い鱗に赤い模様。毒蛇だ。もっとも、俺にとってはあまり関係ない。


「……よし」


 小さく息を吐く。指先を、回すように動かした。


 瞬間、ヘビが滑るように動き出す。最初はゆっくり。地面を舐めるように進み、綺麗な円を描く。


 周囲の子供が「あっ」と声を漏らした。


「ほら、いけ」


 さらに指を動かす。


 赤外線。


 人間には見えない光を薄く伸ばし、ヘビの感覚を誘導する。


 熱を追う習性を使っているだけだ。難しいことじゃない。


 ヘビは迷いなく軌道を変える。


 今度は螺旋。


 細長い身体が絡まるように回転し、石畳の上へ綺麗な模様を描いていく。


「おお……」


 誰かが小さく声を漏らした。


 足を止める人間が増えていく。


 俺は視線を上げず、少しだけ口元を緩めた。


「珍しいだろ?」


 返事代わりに、拍手が一つ鳴る。


 さらに人が集まる。


 暇な冒険者。買い物帰りの女。走り回っていた子供まで、いつの間にか輪の中にいた。


「次、こっち」


 ヘビは“考えることなく”動いた。


 波打つように進み。途中で身体を交差させ。最後は綺麗な結び目を作る。


「うわ、すげぇ!」


「どうやってんだあれ」


「魔法か?」


 俺は肩をすくめた。


「ただの曲芸だよ」


 本当は違う。だが、説明したところで理解されない。だから適当に流す。その方が楽だった。


 ヘビはさらに動く。


 見えない線をなぞるみたいに。地面の上へ、次々と形を描いていく。


 星。渦。


 周囲から感嘆の声が漏れる。子供が目を輝かせていた。


「兄ちゃんもう一回!」


「んー……」


 少し考えるふりをしてから、俺は指を鳴らした。


「特別だぞ」


 ヘビが勢いよく走る。


 一瞬で円を描き、そのまま俺の腕へ巻き付いた。


 小さな悲鳴。


 だが、ヘビは噛まない。


 首元まで登ったあと、ぴたりと動きを止める。


「ほら、大人しい」


「すっげぇ……!」


 笑い声が広がった。悪くない空気だった。嫌いじゃない。


 俺はようやく立ち上がり、軽く手を払った。


「ほい、終わり。戻っとけ」


 ヘビはするりと腕から降り、近くの木箱へ戻っていく。


 最初からそこにいたみたいに、静かに丸まった。


 数秒の沈黙。


 そして――。


 チャリン。


 誰かが硬貨を投げた。


「ああ、悪いな」


 それを合図にしたみたいに、小銭が次々と転がる。


「ほらよ、曲芸師」


「また見せてくれよ」


「ありがとな」


 軽く頷く。


 俺はしゃがみ込み、散らばった硬貨を拾い集めた。


 思ったより多い。


 昼飯くらいにはなるか。


 観客達はすぐ別の話題へ流れていく。


 露店の値段。今日の依頼。昨夜の喧嘩。


 誰も深くは気にしない。


 ただの芸。ただの暇つぶし。


 それでいい。


 俺は硬貨をポケットへ放り込み、小さく息を吐いた。


「……さて」


 空を見上げる。


 陽射しは強い。雲は少ない。


 今日はまだ、時間がありそうだった。


「じゃ、またな」


 誰に言うでもなく呟き、俺はゆっくり広場を後にした。

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