03.曲芸師
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ガブッ。
「きゃあああっ!!?」
広場に悲鳴が響いた。
目の前。
黒と赤の毒蛇が、俺の腕へ深く牙を突き立てていたからだ。
周囲の空気が凍る。
「えっ……」
「噛んだ!?」
「お、おい大丈夫か!?」
騒がしい。
だが、俺――ソロモンは特に気にせず、腕へ噛み付いたままの蛇を観察していた。
「……しっかり入ったな」
毒牙の位置を確認する。
血液。
筋肉の収縮。
毒液の流入速度。
感覚で分かる。
周囲は完全にパニックだった。
「な、何やってんだあいつ!?」
「死ぬぞ!?」
「解毒師呼べ!!」
だが、その必要はない。
「ほら、離せ」
赤外線。
人間には見えない熱の線を薄く伸ばし、蛇の感覚器官を誘導する。
すると蛇はするりと牙を抜き、俺の腕から離れた。
周囲から悲鳴が漏れる。
腕には二つの深い穴。
紫色の毒が血と一緒に滲み出していた。
「うわぁ……」
「終わっただろあれ……」
子供が泣き始める。
広場の空気は最悪だった。
だが、俺は冷静に腕を見下ろす。
「やっぱり回り始めるの早いな」
痺れ。
熱。
軽い眩暈。
毒が神経へ到達し始めている。
興味深い。
「兄ちゃん!!」
見物していた男が青い顔で叫ぶ。
「は、早く解毒しろ!!」
「そうだな、そうするとしよう」
俺は頷いた。
そして。
もう片方の手を、自分の腕へ当てる。
瞬間。
ジュッ――。
小さな音と共に、傷口から白い煙が上がった。
「っ!?」
周囲が息を呑む。
熱。
赤外線。
極小範囲へ集中照射。
毒が回る周辺の血流を一時的に焼き、循環を止める。
当然、痛い。
だが問題ない。
「……ふむ」
焦げた臭いが広がる。
俺は淡々と傷口を観察した。
「思ったより熱いな」
「分析してる場合か!?」
誰かが叫ぶ。
その間にも蛇は動く。
石畳を滑り。
俺の周囲を回り始める。
まるで踊っているみたいに。
「おお……」
誰かが呆然と声を漏らした。
俺は軽く指を動かす。
すると蛇はその動きに合わせて綺麗な円を描き、そのまま空中へ跳ね上がった。
悲鳴。
歓声。
拍手。
広場の空気が一気に変わる。
「すっげぇ……!」
「なんだあれ……」
「魔物使いか?」
「いや、頭おかしいだけだろ……」
否定できない。
俺は小さく息を吐いた。
「ほら、次」
蛇は迷いなく動く。
星。
螺旋。
複雑な結び目。
見えない線をなぞるみたいに、石畳へ次々と模様を描いていく。
周囲の子供達が目を輝かせていた。
「兄ちゃんすげぇ!!」
「もう一回!!」
「死にかけてたのに!?」
「死んではない」
訂正する。
まだ。
俺は少し痺れの残る腕を見下ろした。
「……あと数分放置してたら危なかったかもしれないが」
「危なかったのかよ!!」
広場中からツッコミが飛ぶ。
うるさい。
だが、嫌いじゃない。
チャリン。
誰かが硬貨を投げた。
それを合図にしたみたいに、小銭が次々と飛んでくる。
「曲芸師だ……」
「また変なことやってるぞ」
「次は何する気だあいつ……」
勝手に噂されている。
だが、それでいい。
俺はしゃがみ込み、硬貨を拾い集めながら小さく呟いた。
「優秀な小遣い稼ぎだな」
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