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依頼は単純だった。
低級魔物の討伐。
街道沿いの小さな森に魔物が住み着いたらしい。放置しておくと旅人や商人が襲われるため、定期的に間引きを行う。
よくある依頼だ。
日が落ちかけた森の中は薄暗い。
木々の隙間から赤い光が差し込み、地面へ長い影を落としていた。
周囲には何人かの冒険者がいる。
前を歩いているのは、大剣を背負った男――ガルド。
筋肉の塊みたいな体格で、声も無駄にでかい。
「今日は楽そうで助かるぜ!」
「毎回それ言ってるよね、ガルド」
呆れたように返したのは、短杖を持った魔法使いの女。
ミリアという名前だったはずだ。
茶色の短髪に細い目。口調は軽いが、魔法の腕は悪くない。
その後ろでは、弓を持った細身の男が周囲を警戒している。
エルク。
無口で愛想は悪いが、索敵は上手い。 ……まあ、本当は俺の方が広く探れるんだが、わざわざ言う必要もない
「……気配、近いぞ」
低い声。
全員の空気が少しだけ変わる。
俺も歩調を落とした。
今回の依頼は即席パーティみたいなものだ。
誰かが前衛をやり、誰かが魔法を撃つ。
俺はその中へ自然に混ざっているだけ。
「見つけ次第、各自対応で」
エルクが短く言う。
ガルドは剣を抜き、ミリアはすでに詠唱の準備へ入っていた。
俺も少しだけ距離を取る。
「……」
森の奥で枝が鳴る。
低い唸り声。
次の瞬間、獣型の魔物が飛び出してきた。
灰色の毛並み。異様に長い前脚。口元から涎を垂らしている。
「来たぞ!」
ガルドが踏み込む。
同時にミリアの火球が飛んだ。
一直線。
だが、魔物も馬鹿じゃない。
身体を捻り、回避しようとする。
そこで俺は、軽く手を上げた。
「行くぞ」
魔力を放つ。
風。
ほんの小さな干渉。
木々の間を抜けた空気が、魔物の顔へ当たる。
「ギャッ!?」
一瞬だけ視線が逸れた。
その隙にガルドが剣を振り下ろす。
「おらぁッ!」
魔物が反射的に飛び退こうとして――。
俺は光を屈折させて、獣の感覚を少しだけ誘導する。
結果、魔物は避ける方向を誤る。
「っ……!」
刃が肩口へ深く入った。
「おっ、当たった!」
ガルドが驚いた声を上げる。
俺も横から剣を振る。
追撃。
自然な流れ。
魔物が悲鳴を上げてよろめく。
「追撃いくよ!」
後方からミリアの火球が飛ぶ。
その狙いは大雑把で、本来なら少し外れていた。
だが――。
再び光を屈折させることで、魔物はそこへ自分から飛び込むように動く。
着弾。
爆炎。
熱風が森を揺らした。
「よし! 今ので決まったな!」
ガルドが笑う。
煙の向こうで、魔物は崩れ落ちていた。
完全に沈黙している。
俺は剣を下ろし、小さく息を吐いた。
周囲から見れば、ただの連携戦闘だ。
偶然噛み合っただけ。
「助かったぜ、ソロモン」
ガルドが笑いながら肩を叩いてくる。
「偶然だろ」
「いやー、でもタイミング良かったよ今の!」
ミリアも感心したように言う。
俺は適当に肩をすくめた。
その横で。
エルクだけが、少し黙っていた。
「……」
細い目がこちらを見る。
何かを考えるような視線。
「どうしたの?」
ミリアが聞く。
「……いや」
エルクは短く息を吐いた。
「今の戦い、いつもよりなぜだか上手く戦えた気がしてな」
「結果オーライってやつでしょ」
ミリアが笑って流す。
ガルドも豪快に笑った。
「細けぇこと気にすんなって!」
視線はすぐ次の獲物へ向かう。
誰も深く考えない。
俺は剣を鞘へ戻した。
森の奥を見る。
暗い。
静かだ。
「……」
次はもう少し自然に合わせるか。
そんなことだけを考えていた。




