24.血
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宿舎の一室は、妙に静かだった。
窓の外では冒険者達の笑い声が遠く響いている。
ヴェルナは、今、ベッドの端で腕を組んでいた。
「……で?」
低い声。
「なんだ、その針は」
俺は机の上で小さな金属器具を弄っている。
細い針。
「血が見たい」
「却下だ」
即答だった。
俺は一瞬だけ考える。
「金は?」
「いらん」
「土下座は?」
「もっといらん」
ヴェルナは額に手を当てる。
「お前、どういう倫理観してるんだ」
「興味が勝つタイプ」
「最悪だな」
俺は机から顔を上げる。
「吸血鬼の血、普通じゃないんだろ?」
「だから何だ」
「調べたい」
「だから駄目だと言ってる」
沈黙。
少しの間。
俺は椅子を引いて、普通に土下座した。
「お願いします」
「やめろ」
「研究したい」
「やめろって言ってる」
「一生のお願い」
「軽いな」
ヴェルナは深くため息をつく。
「断る」
「……そうか」
その瞬間だった。
「……っ?」
俺は土下座したまま光を固定する。
「おい、ソロモン……?」
返事はない。
視界の外。
俺は針を構えていた。
完全に死角。
そして、何の躊躇もなく刺す。
「っ!!?」
ヴェルナの身体が跳ねる。
「お前ッ!!」
「取れた」
「許可してないだろ!!」
「さっき拒否されたな」
「わかってるならやるなよ!!」
ヴェルナが立ち上がる。
だが、俺はもう見ていない。
ただ針の先端に付いた血にのみ意識を向ける。
「……何してんだ」
「拡大」
俺の声は淡々としている。
光が一点に収束し、歪む。
針の先に付着した血液が、拡大されていく。
「顕微鏡の代わりだ」
「なんだよそれ?」
「便利だぞ」
俺はヴェルナとの会話を切り上げて観察に集中する。
「……なるほど」
「何がなるほどだ」
「想定より構造が単純かもしれないな」
「…?」
しばらく観察した後、俺はようやく顔を上げる。
「怒ってる?」
「当たり前だろ」
数秒の沈黙。
俺は針をしまう。
「有益だった」
「二度とやるな」
「努力する」
「信用できない」
ヴェルナはふと呟く。
「……お前、やっぱり普通じゃないな」
「よく言われる」
即答だった。
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