18.緊急依頼
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最近、街の空気が少し変わっていた。
夜になると、人通りが減る。
酒場の閉店も早くなった。
衛兵の巡回は増え、商人達は日が落ちる前に店を畳むようになっている。
理由は単純だった。
人が消えている。
最初は酔っ払いだった。
次は、夜道を歩いていた商人。
そして数日前には、冒険者まで帰らなくなった。
ギルド内も、どこか落ち着かない。
「また一人消えたらしいぞ」
「今度は東区だってよ」
「魔物か……?」
「でも死体が見つからねぇんだろ?」
不安げな声があちこちから聞こえる。
俺は黙ったまま、その会話を聞いていた。
「……」
嫌な感じだった。
血の匂いがする。
いや、正確には。
“血を隠した痕跡”の匂い。
吸血鬼は狩りを隠す。
人間社会に紛れ込むためだ。
だが、今回の件は違う。
痕跡が中途半端に残っている。
まるで――。
「誘ってるみたいだな……」
小さく呟く。
その時だった。
ギルドの奥が少し騒がしくなる。
受付嬢が掲示板へ新しい依頼書を貼り出した。
「緊急依頼?」
「調査依頼か」
冒険者達が集まり始める。
俺も視線を向けた。
内容は単純。
“連続失踪事件の調査”。
ただし、危険度が高い。
失踪した冒険者の中には、中堅クラスも含まれていた。
受付嬢の表情もいつもより硬い。
「今回の依頼ですが、単独行動は禁止です」
ギルド内へ声が響く。
「原因不明の襲撃が続いています。必ず複数人で行動してください」
ざわめき。
誰も軽口を叩かない。
空気が重い。
その中で。
「これでいいか」
いつもの声が聞こえた。
俺が振り向く。
ソロモンだった。
掲示板から依頼書を剥がしている。
「おい」
俺が眉をひそめる。
「受けるのか?」
「ああ」
ソロモンは依頼書を眺めたまま答える。
「なんか面白そうだし」
「……」
俺が頭を押さえた。
「お前なぁ……」
「気にならないか?」
ソロモンが軽く首を傾ける。
「わざわざ痕跡を残して、人を誘導してる」
「普通の魔物じゃない」
少しだけ目が細くなる。
「しかも隠す気も薄い」
その声音は、妙に楽しそうだった。
「……面倒な予感しかしない」
「俺は好きだぞ、こういうの」
「子供かお前は」
ソロモンは少しだけ笑った。
「未知の生き物かもしれない」
「そこなのかよ」
俺は深くため息を吐く。
だが、その目は真面目だった。
「これは罠だ」
「だろうな」
「理解してるなら行くな」
「でも気になる」
「……」
俺は黙ってしまう。
本気で言っている顔だった。
こいつは危険だから行くんじゃない。
危険そうだから興味を持っている。
「……お前、たまに怖いんだよ」
「よく言われる」
悪びれた様子もない。
俺はもう一度ため息を吐いた。
それから受付へ向かう。
「あの依頼、同行申請する」
受付嬢が目を丸くした。
「ヴェルナさんも行くんですか?」
「ああ」
ちら、と後ろを見る。
ソロモンは依頼書を眺めながら、 「行方不明者ってどれくらい消えると大事件扱いなんだろうな」 とか考えている顔をしていた。
「……一人で行かせると不安だ」
受付嬢が妙に納得した顔になる。
「わかります」
「わかるのかよ」
「なんとなくですけど」
書類へ記入しながら、受付嬢は小さく笑った。
「でも、ちょっと安心しました」
「?」
「ソロモンさん、放っておくと変な方向へ行きそうなので」
「もう行ってるだろ」
「否定できませんね」
俺は疲れた顔で目を閉じた。
その横で。
ソロモンは依頼書を見ながら、ぼそりと呟く。
「……わざわざ誘ってるなら、面白い物が見れるかもな」
その目は、普段通り好奇心で満ち溢れていた。
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