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光の勇者ソロモン 〜光を知り尽くした異端の冒険者〜  作者: カルロス
冒険者ソロモン

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17/126

17.グラン

読んでいただきありがとうございます!

『光の勇者ソロモン』毎日更新中です。

 夜の街は、昼とは違った喧騒に包まれている。


 石畳は雨上がりで濡れており、街灯の明かりが反射し、細い路地へ淡く伸びていた。


 その屋根の上を、ひとつの影が移動していく。


 音はない。


 黒い外套を翻しながら、男はギルドの方向を見下ろしていた。


 グラン。


 中級クラスの吸血鬼。


 墓地での失敗以来、しばらく身を隠していたが、ようやく動く許可が下りた。


 任務は二つ。


 裏切り者――ヴェルナの発見。


 そして。


 墓地に現れた、謎の光魔法使いの調査。


「……妙な街だな」


 小さく呟く。


 視線の先では、まだギルドが騒がしかった。


 笑い声。


 酒。


 喧騒。


 吸血鬼の世界とは真逆の空気。


 グランは屋根から静かに降りる。


 そのまま、街の裏路地を歩き始めた。


 まずは情報収集。戦う必要はない。むしろ、戦うなと命令されている。


 “正体がわかるまで接触は避けろ”


 上からはそう言われていた。


 実際、墓地で見た光景は異常だった。アンデッドが一瞬で崩れた。ヴァンパイアの高速移動にも反応した。しかも、何をされたのかがわからない。


 ただ、“光魔法”だった。


 そこまでは確かだ。


 だが、それ以上が不明すぎる。


「……気味が悪い」


 グランは小さく舌打ちした。


 その時だった。


 路地の向こうから、酔っ払い達の会話が聞こえてくる。


「知ってるか? 最近また変なことやったらしいぞ」


「誰が?」


「曲芸師」


「あー……」


 グランの足が止まる。


「今度は何したんだ?」


「空飛ぶ発光クラゲ爆発させた」


「意味わかんねぇ……」


「広場が青く染まったらしい」


「子供は喜びそうだな」


「衛兵はキレたらしいぞ」


 笑い声。


 グランは無言になる。


「……なんだそれは」


 さらに別の場所では、


「変な蛇操ってたぞ」


「この前は光のミニクラーケン」


「見世物師じゃねぇの?」


 そんな話まで聞こえてくる。


 グランの眉間に皺が寄る。


「そんなやつが本当にいるのか……?」


 むしろ混乱してきた。


 だが。


 次の瞬間。


 グランの視線が止まる。


 宿舎の入口。


 そこから、二人の男が出てきた。


 そのうちの片方は人間に紛れていてもわかる。


「……ヴェルナ」


 間違いない。


 裏切り者。


 吸血鬼狩り。


 同族殺し。


 そして、その隣。


 気の抜けた表情の男。

 

 周囲を警戒している様子はない。


 だが――。


「……あいつだ」


 墓地の男。


 グランは屋根の影へ身を沈める。


 距離は十分。気配も消している。見つかるはずがない。


 そう思った瞬間だった。


「……尾行下手だな」


 銀髪の男――ソロモンが、ぼそりと呟いた。


 グランの身体が止まる。


 ヴェルナが隣を見る。


「ソロモン?何かいるのか?」


「後ろ。屋根の上」


 あっさり言う。


 視線すら向けない。


 なのに位置だけ正確だった。


 グランの背中に、冷たい感覚が走る。


 見えていない。


 だが、“把握されている”。


 そんな感覚だった。


「知り合いか?」


 ヴェルナが低く聞く。


「いや、たぶん初対面」


 ソロモンは適当に答える。


「でも、昨日からこの町をうろついてるみたいだな」


 グランの表情が固まる。


 昨日から。


 気づいていたのか。


 ずっと。


「……化け物め」


 小さく呟く。


 これ以上は危険。


 グランは即座に後退した。


 闇へ溶けるように屋根を飛び移る。


 追ってこない。それが逆に不気味だった。


 しばらく距離を取ったあと、グランはようやく息を吐く。


「……なるほど」


 あれは危険だ。


 少なくとも、俺が軽く触れていい相手じゃない。


 そして何より。


 “何を見ているのか”がわからない。


 夜の屋根の上。


 グランは懐から小さな魔導具を取り出した。


 血で刻まれた通信具。


 赤い光が滲む。


「報告する」


 低い声。


「対象を確認」


 少し間を置く。


「裏切り者ヴェルナ、生存を確認」


「人間社会へ潜伏済み」


「そして――」


 グランの脳裏に、あの男の顔が浮かぶ。


 気だるそうな目に、力を隠す気のない態度。


 それなのに、何も読めない。


「謎の光魔法使いも確認した」


 通信具の向こうが静かになる。


 グランは続けた。


「名前は、ソロモン」


「危険度不明」


「能力詳細、不明」


「ただし――」


 グランの声がわずかに低くなる。


「極めて危険な可能性あり」

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