16.発光実験
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朝。
宿舎の食堂は、妙に静かだった。
いつもなら冒険者達が騒いでいる時間だ。
だが今日は違う。
全員の視線が、一ヶ所へ集まっている。
「……」
俺は無言でその方向を見る。
窓際の席。
ソロモンがいた。
机の上には、ガラス瓶が大量に並んでいる。
赤、青、緑、それに妙に発光している液体まである。
「……何してるんだ、あいつ」
近くの冒険者が小声で呟く。
「朝飯じゃねぇのか?」
「いや、絶対違うだろ」
ガルドが引いていた。
その横で、ミリアが興味津々な顔をしている。
ソロモンは真剣だった。
スプーンで液体を少量ずつ混ぜ、光に透かし、時々メモまで取っている。
「……よし」
満足そうに頷く。
そして。
飲んだ。
「飲んだぞ!?」
誰かが叫ぶ。
俺は頭を押さえた。
「おいおいおい……」
数秒。
変化なし。
ソロモンは普通に座っている。
次の瞬間。
ソロモンの髪が、ふわっと青く光った。
「……は?」
食堂が静まる。
本人だけが冷静だった。
「なるほど。発光時間は短いか」
「そこなのかよ!!」
ガルドが机を叩く。
ソロモンはメモを取り続けている。
「味は悪くないな」
「味見基準で飲むな!!」
ミリアが爆笑していた。
俺はゆっくり近づく。
「お前、何してる」
「発光生物の体液と薬草の反応実験」
「朝飯中にやるな」
「今しか時間なかったし」
「もっと他にあるだろ」
ソロモンは少し考える。
「夜?」
「そういう話じゃない」
その時。
ソロモンの髪色が今度は紫へ変わった。
「増えた!?」
「混ざってるな」
「冷静に分析するな!」
俺は本気で疲れた顔になる。
だが、ソロモンは楽しそうだった。
子供みたいに目を輝かせている。
ガルドが笑い転げている。
ミリアは椅子に突っ伏していた。
エルクだけが静かに呟く。
「……そのうち爆発するぞ、あいつ」
「たぶんもう何回かしてる」
俺が真顔で返す。
するとソロモンが顔を上げた。
「そういえば前に一回――」
「聞きたくない」
「宿の壁が溶けて――」
「聞きたくないって言ってるだろ」
ソロモンは少し残念そうだった。
その時。
受付嬢が食堂へ入ってくる。
そして、ソロモンを見る。
髪が赤青緑に点滅していた。
「……またですか?」
「今回は成功寄り」
「前回は?」
「机が透明になった」
「意味がわかりません」
「俺も全部はわかってない」
「理解してからやってください」
即答だった。
食堂に笑い声が広がる。
俺は深くため息を吐いた。
「……なんで誰も止めないんだ」
「止まらないからじゃねぇか?」
ガルドが笑う。
ソロモンはその横で、まだメモを取っていた。
「次は発光時間を延ばしてみるか」
「やめろ」
「善処する」
「絶対やる顔だろそれ……」
窓の外では、朝の光がゆっくり街を照らしていた。
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