117.光の勇者
読んでいただきありがとうございます!
『光の勇者ソロモン』毎日更新中です。
高評価、低評価、感想、酷評まで何でも歓迎しております(笑)
読者の皆さまの反応が作者の活力になります。
少しでも面白いと思っていただけたら、お気軽に感想など残していただけると嬉しいです!
光の勇者。
そう認定された翌日。
俺は研究室で、また別の実験を始めていた。
「サンプルを複製する。」
机の上には吸血鬼化解除薬の原液が並んでいる。
ルクスの角の粉末。
ヴェルナの血液から抽出した成分。
毒蛇の出血毒。
薬草。
そして幻覚作用と鎮静作用を持つ茸。
それらを組み合わせた液体を、俺は小さな硝子瓶へ次々と分けていく。
「一人ずつ治療していては間に合わない。」
「吸血鬼化が進行している地域へ広域散布する方法が必要だ。」
「広域散布……?」
セラフが眉をひそめる。
「何をするつもりだ。」
「ミニクラーケンを使う。」
その瞬間、部屋の空気が止まった。
「……何?」
「ミニクラーケンの墨袋に薬液を注入する。」
「墨として吐き出させれば、広範囲へ散布できる。」
「待て。」
セラフは額を押さえた。
「今、何と言った。」
「ミニクラーケンを使うと言った。」
「聞き間違いであってほしかった。」
ミハイルは遠い目をしている。
ヴェルナは何も言わない。
ルクスだけが不思議そうに首を傾げていた。
俺は構わず実験を進める。
小さな水槽。
そこには何匹ものミニクラーケンが入れられていた。
そのうち一匹を捕まえ、墨袋へごく少量の薬液を注入する。
しばらく観察。
ミニクラーケンはぷるぷると震えた後、勢いよく墨を吐いた。
黒い墨の中に、淡い青白い光が混ざっている。
「適合。」
俺は淡々と記録する。
「次。」
二匹目。
三匹目。
四匹目。
適合する個体。
適合しない個体。
墨袋が破裂する個体。
やたら元気になる個体。
水槽から脱走しようとする個体。
実験は淡々と続いていく。
その光景を見ていたセラフは、静かに呟いた。
「……私は。」
「本当にこの男を光の勇者と認定してよかったのだろうか。」
誰も答えなかった。
しばらくして、俺は一匹のミニクラーケンをつまみ上げる。
「これだな。」
「薬液への適合率が高い。」
「墨としての放出量も十分。」
「繁殖させる。」
セラフは嫌な予感を覚えた。
「繁殖?」
「ああ。」
「ついでに空を飛べるように進化を促す。」
「待て。」
「なぜそうなる。」
「地上を移動するより空から散布した方が効率がいい。」
「理屈は分かる。」
「だが納得はできん。」
俺は聞いていなかった。
水槽へ魔力を注ぎ込み、薬液に適合した個体だけを選別する。
ルクスの角の粉末で成長を促進し、光魔法で行動誘導の反応を確認する。
やがて、数匹のミニクラーケンが水槽の中でふわりと浮いた。
小さな触腕を広げ、空中を泳ぐように移動する。
「飛んだな。」
俺は満足そうに頷く。
「飛んでしまったな……。」
セラフは頭を抱えた。
光の勇者。
人類史上初めて吸血鬼化を治療した男。
その男が今、治療薬入りの墨を吐く空飛ぶミニクラーケンを作っている。
聖騎士長として。
常識人として。
あまりにも受け入れがたい光景だった。
「実験地域は?」
ヴェルナが静かに尋ねる。
「異世界を使う。」
俺は地図を広げる。
「吸血鬼化の進行が確認されている。」
「人口密度も高い。」
「広域散布実験の効果を確認するには適している。」
「実験という言い方をやめろ。」
セラフが低く言う。
「人命がかかっている。」
「ああ。」
俺は頷いた。
「だから急ぐ。」
その言葉だけは、真剣だった。
セラフは黙り込む。
無茶苦茶だ。
倫理観も危うい。
だが、この男は本気で人を救おうとしている。
その事実だけは疑えなかった。
「……分かった。」
セラフは深く息を吐く。
「監視と支援は我々が行う。」
「だが制御不能になれば、即座に中止する。」
「構わない。」
俺は水槽の中で浮遊するミニクラーケンを見つめる。
「行くぞ。」
小さなミニクラーケン達が、ぷかぷかと空中へ浮かぶ。
吸血鬼化解除薬を墨袋に宿した、新たな治療兵器。
いや。
治療生物。
その群れが、異世界、つまり地球へと向けて解き放たれようとしていた。
面白い、続きが気になると思っていただけたら、
評価・ブックマーク・いいねなど頂けると嬉しいです!
あなたのワンクリックが作者のモチベーションにつながります。
評価はこの下の星マークをクリック(タップ)するだけ!
星一つからでも大歓迎です!




