116.協力
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聖騎士達の治療室に向かった俺は、目の前の扉を開いた。
「セラフ。」
その一言に、治療を受けていた聖騎士達が一斉に振り返る。
聖騎士長セラフは静かに立ち上がった。
「どうした。」
「吸血鬼化の治療に成功した。」
あまりにも淡々と告げられた一言。
誰も反応できなかった。
「……今、何と言った。」
「吸血鬼化を解除した。」
「実験は成功だ。」
静寂。
研究室の空気が止まる。
「そんな……馬鹿な。」
一人の聖騎士が思わず呟く。
「吸血鬼化は治らない。」
「それは世界の常識だ。」
「その常識を覆した。」
俺は当然のように答える。
「ミハイル。」
「はい。」
奥の部屋からミハイルが姿を現した。
その姿を見た瞬間、聖騎士達が息を呑む。
「人間……。」
「嘘だろ……。」
「吸血鬼の魔力が消えている。」
「完全に戻っているぞ……!」
数人の聖騎士が慌ててミハイルの元へ駆け寄る。
光魔法による浄化。
魔力探知。
身体検査。
あらゆる方法で確認する。
結果は同じだった。
「異常なし……。」
「吸血鬼化の反応……完全に消失しています。」
報告を受けたセラフは、ゆっくりと目を閉じた。
長い沈黙。
やがて静かに俺の前まで歩み寄る。
「ソロモン。」
「教会は長きにわたり、吸血鬼を討つことだけを正義としてきた。」
「救う術が存在しなかったからだ。」
「故に、吸血鬼となった者は討伐するしかなかった。」
セラフは真っ直ぐ俺を見つめる。
「だが、お前は違った。」
「お前は討つのではなく、救う道を選んだ。」
「研究を止めず、ついには吸血鬼化という呪いそのものを打ち破った。」
その声は静かだった。
だが、研究室中へ響き渡るほど力強かった。
「その功績は、一人の命を救っただけではない。」
「これから先、吸血鬼となった全ての者へ希望を与える偉業である。」
セラフは剣を抜く。
そして、その切っ先を地面へ突き立てた。
ガンッ。
その音を合図に、周囲の聖騎士達も次々と剣を地面へ突き立てる。
一人。
また一人。
やがて全員が片膝をついた。
俺は首を傾げる。
「何をしている。」
セラフは深く頭を下げた。
「聖騎士長セラフの名において宣言する。」
「ソロモン。」
「貴殿は、人類史上初めて吸血鬼化の治療を成し遂げた。」
「その偉業を称え、本日この時をもって。」
「貴殿を――」
一瞬の静寂。
そして。
「光の勇者として認定する。」
研究室に歓声が響いた。
「光の勇者!」
「光の勇者!」
「光の勇者!」
ミハイルは目に涙を浮かべながら笑う。
ヴェルナも静かに微笑み、ルクスは嬉しそうに鳴き声を上げた。
その中心で。
当の本人だけが、いつも通りだった。
「そうか。」
短く頷く。
「なら協力してくれ。」
歓声がぴたりと止まる。
「治療法は完成した。」
「次は量産だ。」
俺は机の上へ地図を広げる。
「一人ずつ治療していては効率が悪い。」
「大量の吸血鬼を、一度に治療する方法を考える必要がある。」
セラフは思わず苦笑した。
「称号を授けられた直後に、もう次の研究か。」
「ああ。」
俺は平然と答える。
「まだ終わっていない。」
「俺の目的は、吸血鬼を一人治すことではない。」
地図へ指を置く。
「世界中の吸血鬼を、人間へ戻すことだ。」
その言葉に、その場にいた誰もが息を呑んだ。
光の勇者。
その称号は、一人の英雄を称えるものではなかった。
人類と吸血鬼、その長き争いの歴史に終止符を打つ、新たな時代の始まりを告げる称号だった。
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