112.ソロモンの死
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レオニスは静かに立ち上がる。
足元に横たわるソロモンを一瞥し、小さく息を吐いた。
「これで終わりだ。」
それだけを告げると、足元の影がゆっくりと広がる。
黒い闇はレオニスの身体を包み込み、その姿は静かに消えていった。
部屋には静寂だけが残る。
「……。」
ルクスは動かないソロモンの傍へ寄り添う。
鼻先で何度も身体を押す。
返事はない。
「……。」
もう一度。
もう一度だけ身体を押す。
それでも動かない。
ルクスは悲しそうに頭を伏せた。
俺も立ち尽くしたままだった。
目の前の光景が信じられない。
ソロモンが倒れた。
あの男が。
理解が追いつかない。
「ヴェルナさん!」
ミハイルの叫び声が研究室へ響く。
「早く!」
「ソロモン先生に吸血してください!」
「何……?」
「まだ間に合うかもしれません!」
「吸血鬼なら、吸血鬼になれさえすればば……!」
その言葉に、俺は息を呑む。
吸血。
それだけはしたくなかった。
人の血を吸うことだけは、自分で決めた最後の一線だった。
その一線を越えれば、もう元には戻れない気がしていた。
「でも……。」
「お願いします!」
ミハイルの目には涙が浮かんでいた。
「このままじゃ……。」
ルクスも俺を見上げる。
「……。」
震える声。
二人の視線を受け、俺はゆっくりと目を閉じた。
静かに膝をつく。
ソロモンの首元へ手を添える。
一瞬だけ躊躇する。
そして。
ゆっくりと牙を立てた。
赤い雫が一滴、床へ落ちる。
研究室は静まり返っていた。
数秒。
十数秒。
誰も言葉を発しない。
その時だった。
トクン。
小さな鼓動が響く。
「……!」
もう一度。
トクン。
トクン。
鼓動は次第に力強さを取り戻していく。
止まっていた身体が微かに震えた。
傷口の周囲が蠢く。
裂けていた肉がゆっくりと繋がり始める。
まるで時間が巻き戻るように。
切断されていた箇所は少しずつ修復されていく。
血の色が戻る。
肌に温もりが戻る。
そして。
閉じられていた瞳がゆっくりと開かれた。
「……。」
ソロモンは静かに天井を見上げる。
しばらく瞬きを繰り返し、ゆっくりと身体を起こした。
「ソロモン先生!」
魔封じの鎖に繋がれたままのミハイルが涙を流す。
ルクスも勢いよく飛びつき、嬉しそうする。
「……!」
俺は何も言えなかった。
ただ安堵したように、その場へ座り込む。
ソロモンは自分の首元へそっと触れる。
傷は消えていた。
代わりに、二つの小さな牙痕だけが残っている。
「……なるほど。」
静かに呟く。
「今度は俺が、吸血鬼になったということか。」
その一言に、誰も返事をすることができなかった。
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