109.目標変更
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息が荒い。
視界が揺れる。
全身が鉛のように重い。
魔力も、体力も、限界だった。
「はぁ……。」
俺は一歩踏み出そうとした。
だが、膝が言うことを聞かない。
力が抜ける。
そのまま前へ倒れ込んだ。
ドサッ。
草原へ身体が沈む。
誰も動かない。
近衛隊も。
セラフも。
ただ倒れた俺を見つめていた。
「……勝ったのか。」
一人の聖騎士が呟く。
セラフは首を横へ振った。
「違う。」
「あの男は最後まで誰一人として命を奪わなかった。」
「我々が勝ったとは言えない。」
「ただ相手が戦い続けられなくなっただけだ。」
その言葉が終わるより早く。
ゾクリ。
全員の背筋を寒気が走った。
「ようやく終わったか。」
聞き慣れない男の声。
足元。
草原へ伸びた影がゆっくりと膨らみ始める。
黒い霧。
影が立ち上がる。
その中から、一人の男が姿を現した。
黒い外套。
赤色の瞳。
不気味な笑み。
「初めまして。」
「私はグラン。」
「この時を待っていたよ。」
セラフが即座に剣を構える。
「何者だ。」
「吸血鬼ですよ。貴方がたの敵です。」
その一言だけで十分だった。
圧倒的な魔力が周囲を包み込む。
先ほどまでの戦場とは比べ物にならない。
空気が重い。
立っているだけで本能が警鐘を鳴らしていた。
「全隊!」
セラフが叫ぶ。
「目標変更!」
「目の前の吸血鬼を討伐する!」
「「はっ!!」」
傷付いた聖騎士達が再び武器を構える。
近衛隊も立ち上がる。
全員がグランだけを見据えた。
「いい判断だ。」
グランは笑う。
「だが、遅い。」
その瞬間。
影が爆発的に広がった。
大地を這う黒い影。
聖騎士達は一斉に飛び退く。
しかし影は生き物のように追い掛けてくる。
「散開!」
セラフの指示が飛ぶ。
魔法部隊が一斉に光魔法を放つ。
閃光が影を貫く。
だが。
影は止まらない。
「効かない……!?」
重装備隊が盾を構える。
近衛隊が突撃する。
セラフ自身も剣を振るう。
それでも。
グランは笑っていた。
「遅い。」
影が揺れる。
その姿が消える。
次の瞬間には、別の影から姿を現していた。
誰も捉えられない。
誰も追い付けない。
草原へ倒れたままの俺は、薄く目を開ける。
身体は動かない。
だが意識ははっきりしていた。
「……なるほど。」
視線だけをグランへ向ける。
影の移動。
魔力の流れ。
発動までの時間。
癖。
一つ一つを観察し、頭の中へ刻み込んでいく。
戦えなくてもいい。
見られれば十分だ。
俺の研究者としての目だけは、最後まで止まることはなかった。
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