107.VS近衛隊
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「近衛隊、前へ。」
セラフの号令と共に、八人の近衛騎士が一歩前へ出る。
重装備隊とは明らかに空気が違った。
無駄な動きが一切ない。
剣を構えた瞬間から、互いの位置を把握し、一つの生き物のように陣形が完成する。
「包囲。」
八人が同時に動いた。
前後左右。
さらに斜めからも間合いを詰める。
逃げ道を残さない。
「見事だ。」
俺は静かに呟く。
直後、足元へ氷を生成する。
薄く広がる氷が草原を覆った。
近衛隊は滑らない。
魔力を足裏へ集中させ、氷を踏み砕きながら前進する。
「ならば。」
今度は土魔法。
地面から石柱が突き上がる。
一本。
二本。
三本。
しかし近衛隊は即座に散開し、それぞれ最小限の動きで回避する。
「右!」
指示と同時に二人が突撃。
左から三人。
残りは後方で牽制。
完璧な波状攻撃だった。
俺は屈折魔法で姿を揺らす。
剣は幻影を斬る。
だが近衛隊は止まらない。
「本物は右だ!」
次の瞬間には別の騎士が剣を振るっていた。
俺は炎を放つ。
巨大な火球ではない。
足元の草だけを燃やす。
続けて水魔法。
大量の水が炎へ降り注ぎ、白い蒸気が一帯を覆った。
「また霧か!」
「動揺するな!」
近衛隊は声だけで位置を確認しながら陣形を維持する。
その統率力に俺は感心した。
「さすが近衛隊だ。」
赤外線で熱源を捉え、一人の背後へ回る。
風魔法。
剣筋だけを僅かに逸らす。
土魔法。
足元を数センチだけ隆起させる。
水魔法。
地面を濡らし踏み込みを鈍らせる。
どれも小さな魔法。
だが、その積み重ねが連携を少しずつ狂わせていく。
「陣形が乱れる!」
「立て直せ!」
そこへ雷鳴が響く。
落雷ではない。
空気中へ電流を走らせ、近衛隊の動きを一瞬だけ止める。
その隙に距離を取る。
しかし。
「逃がさん!」
二人の近衛騎士が同時に踏み込む。
一人の剣を屈折で逸らした瞬間、もう一人の拳が肩へ叩き込まれる。
鈍い衝撃。
俺の身体が数歩後退する。
ローブの肩口が裂け、血が滲んだ。
「……なるほど。」
初めて表情が少しだけ変わる。
「この連携は面白い。」
近衛隊も無傷ではない。
鎧は熱で赤く変色し、兜の隙間から汗が流れ落ちる。
息も荒い。
それでも誰一人として退かない。
「続けろ!」
再び包囲。
今度は俺も止まらなかった。
風。
炎。
土。
水。
雷。
光。
六属性の魔法が途切れることなく戦場を駆け巡る。
風が剣筋を変え。
土が踏み込みを狂わせ。
炎が視界を揺らし。
水蒸気が姿を隠す。
雷が一瞬の隙を生み。
最後に光が景色そのものを書き換える。
近衛隊も負けてはいない。
乱れた陣形を即座に修正し、互いを庇いながら一歩ずつ距離を詰める。
誰も諦めない。
誰も倒れない。
ただ消耗だけが積み重なっていく。
やがて蒸気が晴れた。
俺のローブは焼け焦げ、袖は裂け、頬には浅い切り傷が走っている。
近衛隊も鎧の各所が焦げ、盾には亀裂が入り、肩で大きく息をしていた。
互いに満身創痍。
それでも視線だけは逸らさない。
セラフは静かにその光景を見つめる。
「……これほどとは。」
近衛隊八名を相手に、一歩も退かぬ冒険者。
「厄介だな…」
セラフの顔には焦燥感が浮かんでいた。
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