106.VS聖騎士隊
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街を出て十分ほど歩いた草原。
セラフがゆっくりと剣を抜く。
「ここなら周囲を巻き込む心配はない。」
「ああ。」
俺も静かに頷いた。
その瞬間だった。
「第一陣、前へ!」
号令と共に重装備の盾兵が一斉に前進する。
全身を鋼鉄で覆い、大盾を隙間なく並べた鉄壁の防御。
その背後には長大なランスを構えた騎士達。
さらに後方では魔法部隊が詠唱を開始し、左右の高台には弓兵が陣取る。
そして最後尾。
近衛隊が剣へ手を添えたまま静かに待機していた。
「綺麗な陣形だ。」
俺は小さく呟く。
「隙がない。」
「当然だ。」
セラフは剣を構える。
「聖騎士隊は個ではなく、隊として戦う。」
「突破できるものなら突破してみせよ。」
「やってみよう。」
盾兵が距離を詰める。
巨大な壁がそのまま歩いてくるような圧迫感。
続いてランス隊。
「突撃!」
槍が一斉に突き出される。
しかし俺は逃げない。
地面へそっと手を触れた。
「土。」
ゴゴッ。
盾兵の足元だけが僅かに盛り上がる。
ほんの数センチ。
だが、それだけで十分だった。
「っ!」
踏み込みが狂う。
盾同士の間隔が僅かに開く。
ランス隊も歩幅を合わせられず、一斉突撃が乱れた。
「隊列を維持しろ!」
すかさずセラフが指示を飛ばす。
「弓兵!」
空を覆う矢。
数百本もの矢が俺へ降り注ぐ。
「風。」
指先を軽く払う。
突風ではない。
矢一本一本へ僅かな横風を与えるだけ。
軌道を失った矢は互いにぶつかり合い、あるいは盾兵の盾や鎧へ突き刺さる。
重装備ゆえ傷一つ負わない。
「魔法部隊!」
今度は炎。
氷。
雷。
様々な属性魔法が草原を埋め尽くす。
俺は炎へ向けて水球を放つ。
轟音。
一瞬で大量の水蒸気が発生した。
白い霧が戦場全体を覆い尽くす。
「視界が!」
「慌てるな!」
聖騎士達は隊列を維持しようとする。
だが俺だけは違った。
赤外線。
霧の向こうに並ぶ熱源が、昼間のようにはっきりと見えている。
霧の中を歩く。
盾兵の横をすり抜ける。
ランスを避ける。
魔法をかわす。
誰一人として俺を捉えられない。
その途中。
盾兵の鎧だけが熱せられる。
「熱い!」
「鎧が!」
思わず盾を落とす者。
兜を脱ぎ捨てる者。
隊列が徐々に崩れていく。
だが俺は追撃しない。
剣も抜かない。
ただ歩き回りながら戦場を掻き回していく。
「どこだ!」
「後ろ!」
「違う、左だ!」
霧の中で声だけが響く。
光の屈折。
足音は反対側から聞こえ、姿は蜃気楼のように揺らぐ。
まるで奇術師だった。
誰も攻撃できない。
誰も捕まえられない。
その時。
「近衛隊、前へ。」
セラフが静かに命じる。
今まで動かなかった精鋭達が、一斉に剣を抜いた。
霧の中にも関わらず、迷いなく俺を包囲していく。
「ようやく本命か。」
俺は静かに笑う。
研究ではない。
奇術でもない。
本当の戦いが、ここから始まろうとしていた。
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