11.宿舎
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朝。
ギルドは昨日より少し静かだった。
酒臭い冒険者が机に突っ伏し、受付嬢達が朝の書類整理に追われている。
そんな中、ヴェルナは妙に居心地悪そうに立っていた。
「……落ち着かないな、ここ」
「今さらだろ」
俺は適当に返す。
「洞窟よりはマシだ」
「比較対象がおかしい」
ヴェルナがため息を吐く。
受付カウンターでは、いつもの受付嬢が書類をまとめていた。
俺達に気づくと、小さく手を振る。
「あ、ソロモンさん。それと……」
そこでヴェルナを見る。
一瞬だけ視線が止まる。
でも、それだけだった。
見た目は普通の人間だ。
体温が少し低いくらいじゃ、普通は気づかない。
「新しい方ですか?」
「ヴェルナだ」
「どうも」
ヴェルナが軽く頭を下げる。
受付嬢は営業用の笑顔を浮かべた。
「冒険者登録ですね?」
「できるのか?」
「特に問題はありませんよ?」
「緩いな」
「街としては人手不足なので」
にこやかに返される。
俺はその様子を見ながら、小さく息を吐いた。
結局、登録は問題なく通った。
ヴェルナは少しだけ不思議そうな顔をしている。
「……変な感じだな」
「何が」
「追われる側だったのに、今は冒険者証持ってる」
「人生そんなもんだろ」
「お前、時々適当に深いこと言うな」
そんな会話をしながら、俺達はギルドを出た。
問題はそのあとだった。
ヴェルナには住む場所がない。
「宿は?」
「金がない」
「なるほど」
「お前は?」
「家ならある」
「あるのかよ」
ヴェルナが少し呆れた顔をする。
「じゃあ解決じゃないか」
「いや、狭い」
「どっちだよ」
結局、ヴェルナは冒険者専用の宿舎へ入ることになった。
ギルド併設の簡易宿泊施設。
安い代わりに壁は薄い。
だが、冒険者には人気らしい。
「まあ、雨風しのげるなら十分か」
ヴェルナはそう言って部屋へ入っていった。
その日の夜。
俺は自宅で寝ていた。
静かな夜だった。
「……」
半分寝ている。
意識も曖昧。
その時だった。
耳元。
小さな羽音。
「……蚊か」
寝ぼけたまま呟く。
赤外線探知。
小さい熱源が一つ、顔の近くを飛んでいる。
鬱陶しい。
俺は目も開けず、軽く指を動かした。
赤外線を収束。
小さく焼く。
それだけのつもりだった。
次の瞬間。
ぱちっ。
「……ん?」
変な音。
数秒遅れて、熱を感じた。
目を開ける。
布団の端が燃えていた。
「……あ」
布が、一気に火を広げる。
「いや待て」
遅い。
火が走る。
棚へ移る。
カーテンへ燃え移る。
「……うわ」
赤外線は得意だ。
だが、普通の消火はそこまで得意じゃない。
結果。
十分後。
俺は燃える家を前に立っていた。
「…………」
近所の人達が騒いでいる。
バケツ。
怒鳴り声。
煙。
「ソロモンさん!? 何があったんですか!?」
「蚊」
「はい?」
「蚊を殺そうとした」
沈黙。
説明してる俺も意味がわからない。
翌日。
俺はギルドの受付にいた。
受付嬢がものすごく微妙な顔をしている。
「……つまり、自宅が燃えたと」
「燃えた」
「蚊で?」
「蚊だな」
受付嬢が頭を抱えた。
ヴェルナは隣で肩を震わせている。
「お前……っ、ははっ……!」
「笑うな」
「いや無理だろそれは……!」
最終的に。
「……というわけで、宿舎の空き部屋を案内しますね」
受付嬢が疲れた顔で言った。
「ただ、今かなり埋まってまして……」
嫌な予感。
「相部屋になります」
「……誰と?」
受付嬢がにこりと笑う。
「ヴェルナさんです」
数秒の沈黙。
そのあと。
「よろしくな、蚊殺し」
「その呼び方やめろ」
ヴェルナが笑う。
俺は小さくため息を吐いた。
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