101.帰路
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帰路。
馬車の中は静かだった。
御者席にはエド。
荷台には俺達。
そして。
ミハイル。
全身を魔封じの鎖で拘束されていた。
手足。
胴体。
首。
完全拘束。
まるで危険な魔物だった。
実際。
今のミハイルは危険だった。
「うっ……」
ミハイルが苦しそうに呻く。
額には汗。
呼吸も荒い。
赤い瞳が揺れている。
ヴェルナが心配そうに見ていた。
「大丈夫か?」
「……はい」
答える。
だが。
次の瞬間。
ミハイルの視線が俺の首筋へ向く。
ぴくりと身体が震えた。
理性では止められない。
本能。
吸血衝動だった。
「っ!」
鎖が鳴る。
ミハイル自身が一番驚いていた。
「ち、違うんです!」
「今のは……!」
俺は何も言わない。
ただ苦しそうな顔をしているミハイルを観察する。
ミハイルは震えていた。
「嫌だ……」
「嫌だ……」
「僕は……」
言葉が続かない。
「厄介だな」
俺は何も言わず観察を続けていた。
瞳孔。
血流。
体温。
呼吸。
魔力波。
全て記録する。
変化は明らかだった。
「ソロモンさん……」
ミハイルがこちらを見る。
不安そうな顔だった。
「僕……元に戻れますか?」
沈黙。
ヴェルナもエドも答えられない。
俺は頷いた。
「分からん」
「えっ」
「だが」
俺は続ける。
「治療法が存在しないとはまだ言い切れん」
ミハイルがぽかんとする。
ヴェルナは苦笑した。
俺は答える。
「試してみる価値はある」
ミハイルは少しだけ笑った。
◇
数日後。
辺境都市アルトレイン。
見慣れた街並みだった。
だが。
以前とは違う。
ミハイルは魔封じの鎖で拘束されたままだった。
人目を避けながらギルド裏の倉庫へ運び込む。
受付嬢も言葉を失っていた。
「ミハイルさん……」
ミハイルは俯いていた。
誰とも目を合わせない。
そして夜。
ソロモンの作業場。
ヴェルナ。
ルクス。
そして俺。
三人と一匹が集まっていた。
机の上には試験管。
資料。
吸血鬼の血液。
そして。
ミハイルの血液サンプル。
ヴェルナが腕を組む。
「で?」
「どうする」
俺は試験管を見つめる。
「治す」
即答だった。
ヴェルナがため息を吐く。
「方法は?」
「知らん」
「おい」
俺は気にしない。
試験管を光へ透かす。
「だから調べる」
ルクスが静かにこちらを見る。
『……』
「不可能だと思うか?」
俺が聞く。
ルクスは少し考えた。
そして。
静かに首を横へ振った。
『……』
ヴェルナが小さく笑う。
「神獣様のお墨付きか」
俺は頷いた。
「なら問題ない」
机の上の血液を見る。
吸血鬼。
影。
光。
そして。
ミハイル。
まだ分からないことだらけだ。
だが。
一つだけ確かなことがある。
俺はまだ諦めていない。
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