99.ヴァルト
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【第三回戦】
闘技場の空気が変わっていた。
観客達がざわついている。
「出るのか……」
「無音のヴァルト」
「久しぶりだな」
対戦相手が現れる。
男だった。
傷だらけの顔。
無駄のない装備。
長剣一本。
それだけだった。
司会が叫ぶ。
「第三回戦!」
「百を超える戦場を生き残った男!」
「無音のヴァルト!!」
歓声が響く。
だが。
男は何も言わない。
ただ剣を抜く。
そして。
こちらを見る。
試合開始。
瞬間。
ヴァルトが消えた。
俺は反射的に後退する。
直後。
光が砕け散った。
斬撃。
首の横を通過する。
皮膚が浅く裂けた。
血が流れる。
もし事前に光を屈折させていなければ。
首は飛んでいた。
観客が沸く。
「当てた!」
「初めてだ!」
俺は首筋へ触れた。
血。
浅い。
だが。
危険だった。
ヴァルトは追撃する。
一切止まらない。
剣。
突き。
斬撃。
横薙ぎ。
全てが致命傷を狙っている。
俺は光を屈折させる。
剣の位置。
体の位置。
距離感。
全てを偽装する。
だが。
ヴァルトは止まらない。
何度も修正する。
経験で補正してくる。
普通の相手なら既に終わっている。
だが。
こいつは違った。
俺は光を固定する。
立っている俺。
そう見せる。
だが実際はしゃがんでいた。
ヴァルトの剣が空を切る。
俺は足を狙う。
しかし。
当たらない。
既に後方へ飛んでいた。
「……」
無言。
だが強い。
観客も異変に気付いていた。
「なんで当たらない?」
「なんで避けられる?」
「何が起きてる?」
理解できる者はいない。
だが。
戦っている俺だけは分かる。
この男。
異常に強い。
俺は閃光を放った。
視界を焼く。
観客達も思わず目を覆った。
直撃。
ヴァルトの目が潰れる。
誰もが終わったと思った。
だが。
違った。
剣が飛んできた。
頬が裂ける。
「……なに?」
見えていない。
なのに当ててくる。
ヴァルトは止まらない。
耳。
呼吸。
足音。
空気。
全てを利用している。
完全な盲目。
それでも。
戦っていた。
脇腹が裂ける。
肩が切れる。
腕から血が流れる。
気付けば俺の方が傷だらけだった。
観客席が沸き上がる。
「押してる!」
「無音が押してるぞ!」
俺は小さく息を吐いた。
「なるほど」
光だけでは足りないか。
なら。
手札を増やす。
「炎よ」
詠唱。
火球が放たれる。
ヴァルトが回避する。
「風よ」
突風。
体勢を崩す。
だが立て直す。
「土よ」
地面が盛り上がる。
それも斬り裂く。
観客がざわつく。
「なんだ今の!?」
「光魔法じゃないぞ!?」
だが。
俺は止まらない。
詠唱。
炎。
風。
土。
そして。
無詠唱の光。
閃光。
屈折。
探知。
熱感知。
全てを同時に使う。
剣を振るう。
魔法を放つ。
研究者らしからぬ戦い方だった。
それでも。
ようやくだった。
互角。
ようやく互角。
ヴァルトが初めて防戦へ回る。
そして。
その瞬間。
光が揺らいだ。
ほんの僅かな屈折。
髪一本ほどの錯覚。
だが。
戦場では致命的だった。
ヴァルトの剣が空を切る。
俺の剣が首元へ届く。
停止。
沈黙。
観客席が静まり返った。
ヴァルトは動かない。
しばらくして。
ゆっくりと剣を下ろした。
敗北を認めたのだ。
「勝負あり!!」
歓声が爆発する。
第三回戦。
ソロモン勝利。
だが。
俺は剣を下ろしながら思う。
吸血鬼でもない。
魔物でもない。
ただの人間。
それがここまで強いとは。
実に興味深かった。
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