81 VS■■②
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襲い掛かるボスからの猛攻を凌ぎながら、後ろへと下がっていく。降りかかる拳を避け、弾き、受け止め…俺は死ぬ気で防御に集中していた。
「どうしたんだいシン。さっきまでとは打って変わって弱腰じゃないか。そのままでは私を殺せないよ」
…うるせぇな…!守るだけで手一杯なんだよこっちは!
相変わらずボスは手加減をしたままだ。ムカつく。だが、その方が俺にとって都合はいい。強化した聴覚に人間のモノじゃない足音が近くで聞こえている。このままダラダラ時間を稼いでそちらに向かえば、思い通りの展開になるだろう。
「あ!もしかして、何か作戦でもあるのかな?」
その時、俺の顔面に向かっていた拳が突然方向転換して真下へと向かう。
ズガァァァン!!
強烈な衝撃音を響かせ、その拳は地を叩いた。
「…がッ…!!」
狙ってやってはいないだろうが、その音は過敏になった俺の聴覚に甚大なダメージを与えた。おそらくいずれ回復するであろうものの、両耳共にもう何も聞こえない。ボスの動きを見て反射的に五感の強化を緩めダメージを抑えようとしたが、間に合わなかったらしい。
…だが、それよりも…!
叩きつけられた地面から舞う砂塵によって、ボスの姿を見失った。
…これは…やばいな。
砂塵は俺の周囲にも舞っており、360度視界不良だ。本当なら一刻も早くここから抜け出したいが、下手に動いてそこをボスに攻撃されるとまずい。音も聞こえない以上、しばらく聴覚の回復を待ってから動くのが―――
勘…とでも言うのだろうか。耳も目も使えない状態で、確かに俺はその攻撃を察知した。
「…ッ!!」
背後から首を狙った、ボスのナイフによる刺突。当たる寸前で振り返り掌で受ける。ナイフが掌の中央を貫通し、目前まで刃の切っ先が迫った。
やっっば…!!
ナイフを手から抜きつつ後ろに跳んで距離を離す。すぐさま砂塵の中から脱出した。追撃が来るかと思ったが、ボスは砂塵の中から出てこない。
一息つく時間が訪れて、全身にぶわっと汗が噴き出た。
…死んでた。死んでた。死んでた死んでた死んでた、ワンチャン死んでたよな俺!!!??
右手にぽっかりと穴が開いたにも関わらず、痛みは全く感じない。脳内に分泌された夥しい量のアドレナリンが痛覚を麻痺させている。
…危なかった…!!良く反応した俺!!よく反応できたな俺!?
とはいえ、右手はもうほぼ使い物にならなくなった。腱がイカれて小指と親指以外動かない。だがまだナイフを握る利き手は無事だ。それだけで十分。
「うんうん、いい反応だね。これくらいはできないと」
晴れていく砂塵の中からボスの声が聞こえた時、自分の耳が回復したことに気づく。
「じゃあ、そろそろ遊びは終わりにして私も少し本気を出そうかな」
姿をあらわにしたボスは片手にナイフを握っている。
…とうとう素手をやめたか。いよいよ万事休すだな。だが―――
「少し遅かったんじゃないか、その判断」
これまで一切表情を崩さなかったボスの顔が一瞬強張る。俺の狙いに気づいたみたいだ。きっと視界に入ったんだろう。だってこんなに、背後から獣の唸り声が聞こえるんだから。
*****
―――そう、元々この地区は”狼の魔獣の被害によって廃棄された場所”だ。だから、少なくない頻度で『狼の魔獣の群れが現れる。』度々夜間に出没して、その中でも特に、『新月の夜に出てきやすい』らしい。
…そういえば、今日は新月か。…なるほど、どうりで、不気味なほど…人気が無いわけだ。…『みんなどこかに避難したり、家の奥に隠れたりしてる』んだろうな。
狼の魔獣についての情報はボスから―――
*****
ガナレ地区では、その獣が度々現れる。新月の夜に人を食らいにやってくるのだ。『狼』が。
ちらりと視線を移す。俺の背後には、狼の魔獣が群れを成して集まっていた。




