79 勝機
「こんばんは、シン」
やばい…!やばいやばいやばいやばい!!
「…こんばんは。珍しいですね、ボスと外で会うなんて」
クライルが死んだことに…俺達が逃げようとしていることにもう気づいたのか…!!いや、気づいたことより…!その上でもう俺に接触しているのがやばい!!行動も察知も早すぎる…!!
「ははは、そうだね。少し急ぎの用事があって…まぁ、もう大丈夫かな」
「…そうですか」
よ、用事…!?も、もしかして、クライルの死をボスはまだ知らな───
「そうだ!ちょうどシンに聞きたいことがあったんだよ」
「…聞きたいこと…ですか」
「クライルのこと、何か知らない?」
……ッ!!
「いえ、特には」
「さっきから連絡がつかないんだよ」
「そうなんですか」
「何か知らない?」
「知らないです」
「おかしいな…さっき向こうにあるマンションの屋上でクライルの死体を見たから―――」
………。
「シンなら何か知っていると思ったんだけど」
「……死んだんですか、クライル」
「そうそう、死んでた。死体を見たら致命傷が首の裏にあってね、その傷が特徴的だったな…。刺し傷なんだけど、傷口がすごくなめらかなんだ。普通のナイフで刺したらまずつかないような傷。例えば、なんでも切れる程切れ味のいい、古代遺物のナイフなら可能だと思うけど………」
「………」
「じゃあ、まどろっこしい真似はやめて素直に聞こうかな」
「シン、君がクライルのことを殺したな?」
…やっぱ…バレてたか。実際、わざわざ俺に接触してるのにボスがクライルのことを知らないなんて話…都合がよすぎるもんな。
ふーっと軽く息を吐き出す。
「…そんなこと知らないって言ったら…どうするんですか。それでも、俺も…俺と一緒にいたリアも殺すんですか」
聞くまでも無く殺すだろう。…つまりリアを生かすためには、ここでボスを潰さないといけない。できるかどうかとか…どうでもいい。こういう事態になった以上何が何でもこいつは殺す…!!!
「いやいや、とんでもない!そんなことできないよ…」
……は?
「あんなにも鮮やかな仕事を見たら、殺すなんてとてもできない…」
………?
「クライルの死体に抵抗した形跡がなかった。背後から一撃で仕留めたんだろう?信じられないよ…シンにそこまでの能力があったなんて。クライルもプロだ、そう簡単に暗殺される訳がないのに…一体どうやったんだい?」
「…何言ってんのお前」
「褒めているんだよ。いやはや想定外だった。そう簡単に殺されないと思っていたからこそ、監視を任せたのに…」
「…いや、はぁ?意味わかんねぇ。お前、悲しくないのか。クライルが…死んで…」
「悲しいよ。でも、悲しんだって何も変わらないだろう。まぁ、残念だったね」
仲間が死んだのに、それで…終わり…?
「さて、そろそろ本題に入ろうか。私はね、シンのやったことを許す気でいるんだ。君を殺すのは惜しい。もし、もう一度私と暗殺者として生きるというのなら、命を取るような真似はしない。今まで通り、仕事をする毎日に戻れる」
「…断れば」
「殺す。勿論、できるだけ苦しむように」
………ボスがどういう人間なのか、ずっとわからなかった。でも…今わかった気がする。そしてこれを利用すれば…俺はボスからリアを守れるかも、しれない。…正面からの戦闘で勝てるならそれが一番いいが。
ズボンのポケットのファスナーを開けて、中から錠剤が入ったプラスチック容器を取り出す。
「なんだいそれ」
「ラムネです」
中身はリア・エイレーンが服用している錠剤だ。作戦中こまめに摂取する必要があるため持っていた。
容器のふたを開けて、中から取り出した二粒を飲み込む。検証したところ3粒までは飲んでも死ななかったので、まだ効果が残っている一粒とくわえて、これが限界の量。
「……ぅ…ぐ…」
視界が歪み、鼓膜が破れそうなほど耳鳴りがする。全身の神経が脈を打ち、その度に激痛が走った。
…相変わらずキッツいな…これ。
気合でその症状を治し、手足を軽く動かす。
…体の動きは悪くない。
遠くを飛んでいる鳥の瞳の色を確認する。
…青か。視界も良好。
「………もし、俺が暗殺者に戻ると言ったら、黒い髪のあの子はどうなる」
「いや、どっちを選んでもその子は殺すよ。罰は罰だろ?決まりを破ったのは―――」
投擲用のナイフをコートから抜き、ボスの眉間に向けて放つ。風を切り一直線に飛来したそれを、ボスは半身になって躱した。
「だったら交渉決裂だ。ぶっ殺してやるよ、人殺し」




