77 交渉
「...こちらへどうぞ」
促されるままに修道女の後に続き、礼拝堂の奥の方にある扉に向かう。扉を抜けた先は…事務室だろうか。大きな机や椅子があり、綺麗で整っている。スラムにあるにしては、小綺麗すぎて違和感がある空間だった。
…ここで売買のやり取りをするのか?
疑問を浮かべる俺をよそに、修道女は歩き続け事務室のさらに奥にある扉を開ける。見たところはなんてことない普通の見た目をしていたが、その奥には下へと続く階段が続いていた。
「…地下があるのか」
少し驚いて、つい口に出てしまう。
「ええ。取引は基本この奥で行います。もう少々歩いて頂くことになりますが、ご容赦ください」
淡々とした口調で修道女は階段を下る。本当にこの先に進んでいいのか、少し迷いながらも、俺は階段を降りて行った。
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コツコツと二人分の足音を響かせながら、会話もせずに階段を降りる。地下に続いているので真っ暗かと思いきやそんなこともなく、照明がついているのでそこそこ明るかった。
…電気通ってるんだな。
しばらくして、階段の先から白くてはっきりとした光が見える。もうすぐ目的地かなと思いつつ進むと、扉が見えた。
「こちらが受付です。ここで査定を行います」
通されたのは普通の部屋。手入れのされた木製の机と、その周りにちょっと質のいい椅子が三脚ある。奥の方には金庫や棚が置いてあり、隅の方にはガタイのいい男性が立っていた。黒い服を着ており、こちらをじっと睨んでいる。この男は警備員みたいな役割の人だろうか。
「どうぞ、おかけになってください」
さっき下ってきた階段を背にして、椅子に座る。向かい側には修道女が座っており、そしてその左奥に男性が立っている。
…よく見るとあの男の後ろにさらに部屋があるな。何の部屋だ?てかどんだけ地下深くまで続いてんだよこの教会。
「もう商品をお出ししてもいいですよ」
「…あ、すいません」
羽織っているコートの内ポケットから、鞘のついたナイフを取り出して机の上に置く。
「これです。なんでも切れるナイフの古代遺物。これを買い取って欲しい」
売るのは勿論ボスから貰ったこのナイフだ。…厳密には、これは貰ったものではないが。
「…ふむ。少し触ってもよろしいですか」
「どうぞ」
今差し出したナイフは俺のものではなく、クライルの持っていたものだ。さっき暗殺をしたとき、持ち物をまさぐると案の定持っていたので拝借してきたのである。俺のは俺ので、コートの内側に携帯している。
ナイフの古代遺物を売るというルートには、強力な武器であるナイフの古代遺物が無くなってしまうという欠点があったが、クライルからもう一つを奪うことでそのデメリットを相殺したのだ。
…我ながら天才だな。
その時、修道女が持っていたナイフをコトっと机に置いた。
「切れ味を確認させていただいてもよろしいですか」
「あ、はい」
「木とゴムと、鉄のを持ってきて」
修道女が男の方を向いて指示を出すと、黒服の男は奥の部屋に消えていった。しばらくして、奥の部屋から現れた男は机の上に持ってきた何かを置いた。
…これは…板か。
男が持ってきたのは、それぞれ木と、ゴムと、鉄でできた板だった。手のひらサイズほどで厚さは5センチくらいある、分厚い板だ。
「それでは失礼します」
修道女がナイフを鞘から抜き、木板、ゴム板、鉄板を順々に軽く両断する。そして慣れた手つきでナイフを鞘に戻した。
「複雑な模様が描かれた金属製の鞘と、この切れ味…本物ですね」
まぁ、そりゃそうよな。
「こちらはグラトアニアの国宝、無慈悲の短剣ですね。同じものが現在は13本しかない希少品です」
へー。名前あったんだこれ。無慈悲の短剣ね、覚えとこ。
「査定額の方が……五億ジール程になります」
値段が五億ね。
五億!!!????
「たっっっっか!!え、安くなんないですか!?そんないらないんですけど!」
逃げながら持ち運べる金額じゃねぇ!!!
「…お、お値下げをご希望ですか…?」
「一億でいいです!!もっと足元見ていいのに!!」
「…しかし、その…これでも十分足元を見ておりまして…これ以上下げるとなると、こちらとしても問題が…」
「え、えぇ…」
もう限界まで足元見てんのかよ…。てか、問題ぃ…?
「問題って…高くして欲しいんじゃなくて、もう少し安く買って欲しいだけですよ?それって僕もあなたも嬉しい、win‐winな取引じゃないですか!?何が駄目なんですか!」
「…いくら裏の商売とはいえ、査定額を異常に下げればそれが噂になります。そうなれば、誰も高価な品を持ち込まなくなりますので…」
くぅ…!!確かにそうかも!
「でも!五億って…アタッシュケース五個分じゃないですか!!一個で十キロぐらいの重さにもなるし…僕、そんな大荷物を持ち運ぶ余裕ないって言うか!!正直一千万位でいいっていうか……」
「あ、でしたら、四億九千万ジールほどを宝石や貴金属でお渡ししましょうか?そうすれば、アタッシュケース一個に五億全て収まるかと。重量もかなり軽くなると思います」
「え、そんなことできるんですか?」
「はい」
「何キロぐらいの重さになりますかね?」
「五キロ前後になるかと思います」
「ならそれでお願いします!」
「承知いたしました」
修道女が立ち上がり奥の部屋へと消える。待つこと数分で、小型のアタッシュケースを一個持ってきた。
「では、ご確認をお願いします」
修道女がアタッシュケースを開き中身を見せる。中には紙帯に包まれた札束が左端に詰めてあり、残りのスペースを小箱が占めている。
「こちらの箱の中に、宝石、貴金属が入っております」
アタッシュケースから小箱を取り出し蓋を開けると、そこには色とりどりの宝石が数種類、金属のアクセサリーが3個入っていた。
…これだけで四億になんのか。金とか宝石ってやっぱたけぇな。
「以上になります。宝石と現金を入れるケースは通常のものでよろしいですか?ご要望がありましたら―――」
「別にないです」
「では交渉成立ということで、こちらお渡しさせていただきます。ロックのナンバーは現在000となっておりますが、変更なさいますか?」
「あ、じゃあ…339にしてください」
「承知いたしました。………では、こちらお受け取りください」
アタッシュケースを受け取る。手に持ってみると、かなり軽かった。錠剤の効果がまだ持続していて、身体能力が向上しているというのもあるが、それでも軽い。五キロぐらいだろうか。
…あれ、五キロってとちょっと重いか?でもまぁいいか。別に普段でもギリギリ持てるか。
「では、こちらへ」
振り向くと、ここに入ってきた階段の方に修道女が立っていた。用が済んだらもう帰れってことらしい。
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