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異世界なんて嫌いだ。  作者: うどんずるずるしたい
第二章 暗殺者編

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76 速攻

 ◆◆メイの自宅◆◆


 「ただいま」


 家に戻るやいなやリビングに向かう。椅子に座っているリア・エイレーンはそわそわした様子で、不安げに俺を見つめていた。


 「あー、なんかさ、お腹空いてる?」


 「空いてないけど空いてる」


 なんだそれ。


 「じゃあ飯食いに行くか」


 「……わかった」


 リア・エイレーンが少し大きめのショルダーバッグを持ったのを確認してから、すぐさま俺は玄関へと向かった。


 ◆◆ガナレ地区◆◆


 「…うまくいったんだよね?外に出てるってことは」


 家から離れてすぐにリア・エイレーンが口を開く。


 「うん、うまくいった。しかもかなり理想的。監視してたやつが例のモノを持ってたから、俺の手元にナイフが残るルートを取れる」


 「そっか…よかった」


 「こっから何するか覚えてる?」


 「教会に行くんだよね。それでシンが交渉をするから、私が外で待つ」


 「そう。また一人にしちゃうけど、ごめん」


 「いや、いいよ」


 …今のところは作戦通りに事が進んでいる。でもいつイレギュラーが発生したっておかしくない。どんな状況に陥っても臨機応変に対応ができるように、構えておかないと。


 少し早めに歩く。すでに日は傾き始めていた。


 

 **三日前**


 

 ―――【作戦がある。勝率は多めに見積もって20%、成功すれば俺達は晴れて自由の身になって、失敗すれば多分酷い目にあって死ぬと思う。乗るか?】


 【もちろん乗った】


 「………」


 リア・エイレーンの返答を見て、『現状』と表紙に書かれたノートを取り出す。


 【こうなった経緯と、現状の概要がここに全部書いてある。一度目を通してほしい】


 クライルやボスについてのことも書いたので、これであらかたの情報共有はできるだろう。―――



 ◆◆◆◆◆◆



 【全部見た】


 数分してから、リア・エイレーンから反応があった。


 【わかった。じゃあおさらいをさせて貰う】


 『現状』ノートを俺の手元に置く。


 【今現在、エイレーンさんは命を狙われている立場にある。期限は一週間だから、今から一週間後にボスとクライルがエイレーンさんを殺しに来るという状況】


 【ボスが上司で、クライルがシンの先輩だよね。暗殺者としての】


 【うん。で、俺達はそれに真っ向から反抗する。ひとまずの目的はこの状況から生存してどこかに逃げること。状況が変わらない限りは、一旦エイレーンさんの祖父母の家を目指して逃げるのがいいと思ってる】


 【私もそれがいいと思う】


 だよな。


 【そして、この目的の障害となるものは三つ。監視の存在、逃走用の資金、ボスの追跡だ】


 【うん】


 【まず監視の存在。おそらくクライルが担当していて、真っ先に対処しなくちゃいけない問題。これをなんとかしないと、逃げようとした拍子にボスとクライルが俺達を殺しに来るだろうし、そうなったらなすすべなくゲームオーバー。俺とエイレーンさんに正面から二人と戦える力は絶対ないから】


 【クライルもボスも凄く強いんだよね】


 …そうなんだよな。特にボスがやばい。強さの底がわからない。


 【次に逃走用の資金。これはいわずもがな。足や飯には金いるから、できるなら百万くらいは欲しい。で、最後にボスの追跡。監視の目を搔い潜ってここから遠く離れた場所にうまく逃げられたとしても、そのままボスが俺達を見逃してくれるとは思えない。どういう手段を使ってくるかはわからないけど、追手が来たり、ボス自身が追ってきた場合に対処できるようにしないといけない】


 【改めて考えると、結構状況が絶望的だ。でも全部あるんだよね?解決策が】

 

 【ある。まず監視のクライルは暗殺ができると思う】


 【え、本当?自分より強いってあのノートに書いてたのに】


 【普通にやったらね。だから今回は絡め手を使う。具体的にはエイレーンさんのお父さんがいた喫茶店と、エイレーンさんの錠剤を利用する】


 【え、錠剤?私の?】


 【うん。前あれを飲んだ時に、五感と身体能力が強化された感じがあったんだ。例えば、遠くで俺もことを見ている人の気配がわかった】


 【そうなの?】



 *****


 ―――これ以上は危険と判断して意識を伸ばすのをやめた。その時だった。


 誰か…見てる?


 『こちらを観察する誰かの気配を感じた』。具体的にどこからかはわからないが、大体この部屋の窓の向こう側から―――


 *****



 【これを利用する】


 【どうやって】


 【まず錠剤を飲んで外に出て、クライルが俺の監視を続けているかを確認してから普通に喫茶店に行く。俺のことを監視し続けてほしいから、道中で少し怪しい動きをするのもありかもしれない。そして喫茶店の中に入ったら、しばらくはじっと待つ】


 【待つ?なんで】


 【クライルが近づいてきたときに暗殺するため。錠剤を飲んで五感が強化されているから、もし俺の動きを怪しんで近づいてきたらすぐに察知して迎え撃てる】


 【あ~、待ち伏せでの暗殺を確実に成功させるために使うんだ。私の薬】


 【そういうこと。まぁでも、多分クライルは近づいてこない。それくらい想定してくると思う。安全を取って、少し離れた位置から表口裏口を見張れる場所で様子見するんじゃないかな】


 【え、じゃあだめじゃん】


 【それでもいいんだ。だから喫茶店という場所を選んだ。ほら―――】



 *****


 ―――全然置かれていなくて、中身はすかすかだ。あと、奥にも、もう一つの梯子があった。


 「あの梯子なに?」


 「『秘密の出口。隣の家屋につながってる。』…いざとなったら逃げられるようにね」


 「…なるほど」


 逃げ道…ね…。わざわざ用意してるってことは追われる身だったんだろうか―――


 *****



 【あそこには俺達しか知らない『秘密の出口』があるから】


 【なるほど、そっか!私忘れてたよ】


 【これを利用すれば、近づいて来なかったとしてもクライルの位置を錠剤の力で捕捉して、死角から接近し暗殺ができる。つまり、クライルが喫茶店に入る俺を監視してくれたらその時点でだいたい暗殺を成功させられる】


 【おおー。なるほど、監視はなんとかなりそうだね】


 【問題は色々あるけどな。そもそもあの錠剤を使いこなせるかとか、クライルが俺のことを監視し続けてくれるかとか。とりあえず、2、3日程度俺は錠剤をコントロールする練習をすることになると思う】


 【わかった】


 【で、ボスの追跡に対してはギルグレイズの宝剣を、逃走用の資金にはこれを使うって感じ】


 携帯していたナイフを取り出し、机の上に置く。


 【なんでも切れるナイフの古代遺物(アーティファクト)、これを売る】


 「え……!?」


 リア・エイレーンが目を見開く。


 【なんでこんなもの持ってるの!?】


 【ボスに貰ったんだよ】


 【貰ったの!?というか、買い取ってくれる場所ある!?古代遺物(アーティファクト)なんて普通の質屋じゃ売れないよ!】


 だろうな。でも。


 【一つだけ当てがある】


 そういうものを買い取ってくれる場所のことを、俺は聞いたことがある。―――


 **◆◆現在◆◆**


 「到着か」


 教会の前にたどり着いた。一度だけ来たことがある、あの忌々しい教会だ。


 「じゃあ、エイレーンさんはここで待ってて」


 「うん」


 …もう二度と来ることは無いと思っていたが、まさかこんな形で訪れることになるとはな。


 教会の中に足を踏み入れて、修道女の元へ向かう。


 「どうされまし…あ、さっきのお客様じゃないですか。まさか…本当に持ってきたんですか?」


 「ああ、持ってきた。査定をして欲しい」



 *****


 ―――「…え……なん…で……教会の…人が…」


 「あそこはただの教会じゃないからな。表向きはそうなっているが、裏では闇取引の窓口をやってる。薬物、盗品、『億単位の希少品、なんでも買い取ってくれるらしいぜ』。もちろん、人間もな」


 …人…間…?―――


 *****



 「買い取ってくれるんだろ?古代遺物(アーティファクト)だって」

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