75 忍び寄る魔の手
◆◆三日後◆◆
「じゃ、行ってくるわ」
準備を済ませて、玄関扉に手をかける。
「気をつけてね」
見送りに来てくれたリア・エイレーンにそう言われた。
「うん。ありがとう」
振り返らずに扉を開け外へ出る。
ふぅ…気張っていこう。まずは、作戦の第一段階をクリアする。―――
◆◆クライル◆◆
「ようやくシンが動いたか」
廃墟の物陰から家から出たシンを視認しながら呟いた。
「この三日間あの家から出てきたのはリア・エイレーンだけだった。それで今出てくるってことは…どうせなにかあるんだろうな、くだらねぇ考えが」
素早く廃墟から抜け出し、シンの後をつける。
「叩き潰してやるよ」
◆◆◆◆◆◆
しばらく尾行をしていると、見覚えのある建物にシンが入っていった。
「あれは…教会か」
あいつが、一度赤子を持っていった場所だ。
「…今更何の用だ?…まさかあの黒髪の少女を保護して貰うつもりか」
考えているうちにすぐにシンは建物から出てくる。数分程度だっただろうか。
「………」
何を考えている?こいつは。
◆◆◆◆◆◆
教会に寄ってから、シンは迷いなく道を進んだ。そしてまたある建物の中に入っていく。
「次は…キセル・エイレーンの住んでいた喫茶店…」
…きな臭いな。何をする気だ?わざわざこんなところに…。
「窓のカーテンが閉め切っているせいで、中でシンが何をしているのか外からじゃわからないな。くそ…もっと近づくか」
そうすればどこかに隙間を作ってそこから中を見たり、最悪音で様子を見ても―――
「いや、待て」
喫茶店に向かう足が止まった。
「…罠か?」
近付いたところを奇襲して俺を殺す気か…?監視を潰すために。
*****
―――結局こうなってちゃ世話ないぜ。あともう一つ」
肩に手を置く。
『もし逃げようとしたらすぐに俺がお前ら殺すからな』
耳元でそっとクライルが囁いてから、俺から離れる。
「じゃあな」―――
*****
実際あの時の俺の発言や、その前のボスの発言から、監視がついてることをシンに悟られていたとしてもなんら違和感はない。
とすると、もしシンがボスから逃げる気なら、まず監視をなんとかするのが絶対条件。その手段の一つとして監視の殺害は確実に入ってくる。この動きが、俺を殺すための罠である可能性は低くないだろう。
「はぁ~、無駄なこと言ったな」
…お互い様だけど。
「…罠を承知で突っ込むか?」
いや…流石に無謀だ。罠だった場合、待ち伏せをしている暗殺者にノコノコ近づくことになる。あまりに危険すぎる。
「…あいつの暗殺の才能だけは本物だからな」
暗殺のフィールドに持ち込まれるのだけは避けないと。―――
◆◆◆◆◆◆
喫茶店を見張りながら、老朽化したマンションに外付けされた非常階段を登り屋上に出る。
「ここからなら喫茶店の表口も、裏口も見れるな」
それにシンとの距離も開く。奇襲される危険性も減るだろう。
しゃがみこみ、鉄の柵の隙間から監視を続けた。
◆◆40分後◆◆
「…動きがないな」
シンは喫茶店に入ったっきり出てくる様子がなかった。
「一体何をしている…?中で俺が近づくのをずっと待ってるのか?」
ありえる話だ。しかし最悪は、もうシンが喫茶店内からいなくなっている場合。そうなると、完全に俺の追跡が撒かれたことになる。俺がこのマンションに移動していたとき、少しの間喫茶店の裏口は死角になっていたのでありえない話ではない。
「ダルいな」
近づかなければ中の様子がわからずシンの動きを把握するのが困難だが、近づけば奇襲の危険性がある。
「…これはちょっと、もう無理か」
もう俺一人の手に負える状況じゃない。ボスに連絡して、指示を仰ごう。
立ち上がり、上着のポケットから端末を取り出す。端末のロックを解除しようとして手を動かした瞬間、トン、とうなじが軽く叩かれるような感覚がした。
…?
突然指が動かなくなった。それと、端末の方にうつむいている視界の下の方に何か見える。赤く染まったこれはナイフの…切っ先…。
視認したと同時にナイフが首から抜かれ、身体が前方へ崩れ落ちる。
何…が、起きた…?
寒気が全身に伝播し眼前に地面が迫る中、おぼつかない思考が結論を導き出す。それは、シンプルな答えだった。
…ああ…なるほど。
目を閉じ、なるがままに身体を預ける。
………成長したんだな。お前も。
◆◆◆◆◆◆
ドサッとクライルが倒れたのを確認してから、息を整える。
「あ~~、緊張した」
クライルが急に立ち上がった時はどうなるかと思ったが、なんとかなった。
「てか内階段の出入り口がちょうどクライルの背後にあってよかったぁ」
階段上って奇襲かけるだけだったし。
「トラップとかあると思ったけど、そういうのもなかったし、いやぁ…運がいいな俺は」
…って余韻に浸ってる場合じゃない。やることやってさっさと退散しないと。
とりあえず、作戦の第一段階は突破だ。




