70 売店①
◆◆◆◆◆◆
「ふー…調子戻ったわ」
ベッドから立ち上がり、腕を回す。
「本当?…よかった」
「マジでそれな。一生あのままかと思った」
「…ごめん」
「ああいや、謝らなくていいって」
感覚過敏の状態が無くなったのは結局、一番初めに薬を飲んでから大体2~30分くらいのことだった。結果的には大した時間もかからず元に戻れたし、死にもしなかったが………次からはよくわからない薬を飲むのはやめよう。
「はー、お腹空いた」
さ、リビングに行くか。一応病み上がり的な状態だし、飯食ったらよく寝て明日はゆっくりするかな!
◆◆翌日 ガナレ地区◆◆
「って…思ってたのに…」
現在俺がいるのは、人の往来が多いガナレ地区の大通りだ。今は冬なこともあり、結構寒い。
「どうして俺が…朝っぱらからこんなことを…」
「はいはい泣き言言わない!シンも声出して!」
「いや…やるけどさぁ…」
なぜこんな場所にいるのか。それは、リア・エイレーンが木彫りを売るのを手伝うためである。どうしてもと頼まれたので来たのだが…まぁ…諸事情によりあんまり乗り気ではない。
「可愛い木彫り売ってまーす!!いかがですかー!!」
「…いかがですか」
目の前には長方形でボロボロの木箱があり、その上に木彫りが十数種類並んでいる。全部リア・エイレーンの作品で、猫、犬、狐、熊など、動物をモチーフにしたものだ。そして、俺の前には一個だけ剣の木彫りがある。これは俺が作ったやつ。
「ちょっと、シン声小さいって。もっと張り切ろうよ」
「…そうしたい気持ちはやまやまだけど…言ったじゃん、俺副業禁止なんだって。あんまり精を出してもな…っていう。あと、そもそも俺木彫りが盗まれないか監視するだけでいいんでしょ?なら声出さなくてよくない?」
「…そうですか。うん。ならいいよ、別に」
…なんでちょっと機嫌悪くなるんだよ。
◆◆◆数時間後◆◆◆
「う…売れない…」
リア・エイレーンが肩を落とし、呆然としている。いまだに木箱の上からは木彫りが1つも減っていなかった。
「な…なんで…どうして…私の自信作なのに…」
「ちょっと値段が強気すぎたんじゃない。値下げしたら?」
「こ、これ以上安くするの!?この子達の価値を…もっと下げないと…いけないの…。私が…丹精込めて作ったのに…?」
「変なプライド出してどうすんだよ…。とにかく金集めんのが優先だろ?なら売れなきゃ値下げは妥当でしょ。他にいじるところもなさそうだしさ」
「う……く…!な、なら先にシンの木彫り値下げしてよ!それで反応見てから判断する!」
「え、ああ、いやそれは…」
「な…!なにその反応!人のこと言えないじゃん!」
「ち、違う違う!俺はプライドとかそういうんじゃなくて…」
「はいはい、違うんですね。じゃあ値下げしてもいいよ…ね!」
「あ、ちょっと!」
俺の前にある剣の木彫りをリア・エイレーンがひょいと取る。
「よし!じゃあとりあえずシンのは半額にしちゃお…っか……」
木彫りに貼り付けられた値札を見てリア・エイレーンの顔が固まっていく。
「な、なにこの値段…?桁が…一、十、百、千……百万!?…売る気ないじゃん…はぁ?」
…う~ん…バレちゃった。
「なにしてんの」
「…違うんですよ」
「なにしてんの」
「いや……俺が作ったもの売っちゃうとさ…副業禁止に引っかかるから…よくないかなって…」
「誰も買わないようにバカげた値段にしたって?」
「………はい」
「はぁ~…信じらんない」
「…すいません」
「シンが自分の作ったもの売りたくないっていうのは理解してあげる。でも、他に手段あるでしょ。単純に売らないとかさ…!変な高値で売ると店自体の信用にかかわるじゃん!そのせいで私の木彫りまで売れなかったかもしれないでしょ!?」
「なんか…一緒に並べた方が…いいかなって…」
「値段が…!!一緒…!だったらね!」
「…すいませんでした」
「はぁ…もう…。はい、これシンが持っといて」
剣の木彫りが渡される。
「…はい…」
「反省してる?」
「…はい…反省してます」
「ならもっと頑張れるよね。大きい声出したりできるよね」
「え…そ…それは…」
「できるよね」
「…はい。…やります」
「よろしい」
リア・エイレーンは口角を上げてにっこりと笑った。目には欠片も光がともっていなくて怖かった。
◆◆数十分後◆◆
「すっごーい!めっちゃ売れた!でもそうだよね、こんなに出来がいいもの売れない訳ないよね!」
俺の剣の木彫りを下げてから、リア・エイレーンの木彫りはすぐに売れた。もう木箱の上には一個しか木彫りが残っていない。
「流石です」
「うんうん。誰かさんのせいで自信を無くしかけたけど、自分を信じてよかった…」
「あの…その件に関しては…本当にすいませんでした」
「二週間は許さないよ?その間ずっとへりくだってね」
「はい…本当にすいま…いや待ておい!!長いだろ!二週間は長いだろ!今日一日だけってのが相場じゃないの!?」
「ふ~ん…。あーあ、ついに本性がでちゃったね。本当は反省してなかったんだー」
「それとこれとは話が違うじゃん!!反省はしてるんだって!でもこの反省モードをずっと続けんのはきついって!」
「本当に反省してるならきついことも続けられるんじゃないですかー?」
「く…こ…こいつ…!だから―――」
「わー!すごーい!かわいいとりさんだ!」
その時、一人の男の子が木彫りを手に取った。




