67 錠剤
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「ただいまー」
「おかえり」
あれから数時間。日が赤くなる前にリア・エイレーンは帰ってきた。
「素材取ってくるって言ってたけど、何取ってきたの?」
リビングの机に置いた手の爪を、爪切りで整えながら尋ねる。
「これ」
すると、ドサッと机の上に中身が詰まった袋を置かれた。
「…何これ…木…?」
入っているのは木材の端材だった。手のひらサイズのが沢山ある。
「これでなにすんの」
「ナイフ貸して」
「え、うん」
椅子から立ち上がり、床の下に収納していたナイフを手に取り、差し出す。これはボスから貰った古代遺物のナイフではなく、普通のやつだ。
「そこに収納してるんだ…ナイフ」
「まぁ、暗殺者なんで」
リア・エイレーンはナイフを受け取ると、どこからか取り出した新聞紙を広げて、テーブルの上で木を削り始めた。それで、リア・エイレーンがなんのためにこの端材を集めたのかがわかった。
「なるほど、木彫り作ろうとしてんのか」
「せいかーい」
「で、作ったやつを売ると」
「そういうこと」
ほーん、頑張ってんなぁ。
「ていうか一緒に作ろうよ」
「…木彫り?」
「うん。別に一個でいいから」
「え~。俺がか…。う~ん…下手でも許してくれる?」
「許すよ。全然」
「じゃ、やるわ」
自分の前のスペースに新聞紙を広げて、上着の中から脇の下に隠していたナイフを取り出す。机の上に置かれた端材を一つ取り出して、俺も作業を開始した。
「…え、そのナイフ…今どこから出したの?」
小言は無視した。
◆◆◆◆◆◆
「あー…疲れた…」
日が完全に沈んだ頃に、リア・エイレーンが背伸びをしながらそう言った。
「確かに。もうこんな時間か。飯でも食う?」
「いらない」
「ああそう。じゃあ俺だけ食うわ。…てか、お前が飯食ってるとこマジで全然見ないんだけどさ、大丈夫なの?そんな小食で」
「それが大丈夫なんだよね。私は魔族だから」
「本当かよ…。まぁ、やせ細ってる感じは確かにないけどさ…」
「別にやせ我慢じゃないって、心配しなくていいよ。ご飯の代わりにこれ飲んでるから」
リア・エイレーンが机の上に置かれた薬瓶を指さす。
*****
―――それ何?何の薬?」
『魔族の私が、人を食べなくてよくなる薬』
「……な!?」―――
*****
例のあの薬か。
「代わりねぇ…飲んでるっつったって一週間に一回だけど」
「一粒でご飯一週間分になるの」
薬瓶の蓋を開け、慣れた手つきで中から錠剤を一粒取り出すと、それをコップの水と共にリア・エイレーンは飲み込む。
別においしそうという訳でもなかったが、その様子を見てふと思った。
「いいなぁ…」
「…え、どういうこと」
「いや、なんか…俺もそれ飲んでみたいな…って」
「は…はぁ…?なんでそうなったの」
「だってあれじゃん。それ飲めば飯全然食べなくてよくなるんでしょ。漫画とかにでてくる、一粒だけ飲めば一日分の栄養が取れるサプリとかとほぼ同じじゃん」
「…あ~…そう、かも?」
「ああいうの飲んでみたいって思ってたんだよね。それでいいなぁって」
「…えっと、物欲しそうな目で見てるとこ申し訳ないけど…錠剤はあげれないよ?」
え。
「そこをなんとか!!」
「無理なものは無理だよ。希少なんだからこれ」
「一粒でいいんだよ!一粒で!!それだけでいいから!!」
「う~ん…」
「だっていっぱい持ってるじゃん!その内の一粒!たった一粒だよ!?あと作ってあげたじゃん俺木彫りのやつ一個!それの報酬としてくれよ!!労働の!対価として!!」
「わ、わかったわかった。わかったからちょっと落ち着いて」
「はい」
「えぇ…急に落ち着かれるとそれはそれで怖いよ」
「…またあのテンションに戻った方がいいの?」
「それはやめて」
…そうか。
「…………う~ん…でもわかった。一粒だけあげるよ。木彫り作ってくれたし」
「お!まじか!」
「これっきりだからね。二回目は無し」
「当り前よ。俺だってそこまで欲深くはない」
「…はい、どうぞ」
差し出された錠剤を受け取る。すぐさまシンクへと向かい、コップに水を入れて錠剤を飲みこんだ。
「おお…!!う、うめぇ…!」
「おいしいかな?味しないでしょ」
「気分的にだよ!すごいこう、なんかいい感じがする」
「…そっか」
「てかさ、気になったんだけどこれって何入ってるの?」
「お父さんが言うには特殊なマナが入ってるんだって。といっても、普通の人は飲んでも何も起きないらしいから、シンが飲んでも期待するような効果はでないと思うよ」
「…まじかよ。じゃあこの動悸とかはプラシーボ効果ってこと…?存在したんだなプラシーボ効果って―――
………あれ。
よく考えたら、俺、普通の人じゃない?俺って異世界からこの世界に来てたかもしれない。
あれ、これやばい…?冷汗でてきたし、なんか頭くらくらする……。
てか、昔言われなかったっけ。…なんか怖いこと…。
*****
―――……一応になるけど、メイにも魔法を使える可能性自体はあるよ」
「……ほんとに!?」
「本当。試したとして死んでしまうだけだと思うけど」
「えぇ…?…じゃあ…いいや。」―――
*****
あ、これ…や…ば………
ガクンと視界が揺れる。
「…!?シン!!」
俺は崩れ落ちるように地面に倒れこんだ。




