66 異変
◆◆2週間後 リア・エイレーン◆◆
がやがやとしたガナレ地区の大通り。人混みをかき分けて、周りの物より少し立派なバラックの中に入る。
「おはようございまーす!」
中には強面の男性が一人。最初は怖かったけど、今ではすっかり顔なじみだ。
「…相変わらず早いね。嬢ちゃん」
「早起きは私の取り柄ですから」
この男性はソローさん。ここで仕事の斡旋所を営んでいる人になる。
2,3週間前に見つけてから、私はこの斡旋所から仕事を受けるようになった。初めの方は一人で仕事を探していたが、それで少しトラブルがあってここを利用するようになったのだ。
「で、今日はどんな仕事があるんですか?」
「………その…言いづらいんだが…」
「……?」
「今日から、お前さんに仕事は渡せなくなった」
…!?
「え!?な、なんでよ!!」
「すまん。それは言えない。…ただ、嬢ちゃんは何も悪くないんだ。本当に、申し訳ない」
「…何…それ…」
◆◆◆◆◆◆
ソローさんの斡旋所を後にして、大通りから外れた道をトボトボと歩く。
「…なんで、急にこんなことになったんだろう」
今までは普通に仕事を紹介してくれた。それが今日突然…。
「まさか…バレた…?」
私が魔族だってことが。
…でも、それなら対応が生ぬるすぎるか。警察に突き出すでもなく、ただ仕事をさせないだけなんて。
「う~ん…仕事やりすぎて、私に仕事取られた人に恨まれたとか…かなぁ…」
考えても考えても、理由はわからないままだ。ただ、落ち込んでいても仕方ないので、また別の仕事の斡旋所に行ってみることにした。―――
◆◆メイ◆◆
「…ただいま」
「?…おかえり」
家で腕立て伏せをしていると、リア・エイレーンがしょぼくれた様子で帰ってきた。
「帰ってくるの早いな。なんかあったの」
「…うん」
「テンション低。どうした」
「…仕事がさ…私には渡せないって言われて…。どこ行っても仕事させて貰えなくて…」
「どこ行ってもアルバイト出来ないみたいな感じ?」
「…そう」
「まじか。なんで?」
「わからない」
「…魔族ってバレたとか?」
「それは無いと思う。もしそうなら、私今頃死んでるはずだから」
「………なるほど」
椅子に座ったリア・エイレーンは、ため息を時折吐いては、遠くの方を見つめている。…かなり弱っているみたいだ。
「まぁ、あれじゃない?少ししたらさ、元通りになるんじゃないの。あんまり落ち込まなくていいって」
「………少しって、どれくらい」
「え、いや…」
「…明日…明後日?一週間?それとも、一か月?」
「それは…」
「………ごめん、今の無し」
リア・エイレーンは倒れこむように机に突っ伏す。何をすればいいのかわからなくて、俺もその場で固まった。一人にさせてあげた方がいいかなと思いリビングから去ろうとした時、後ろから声が聞こえた。
「…私ね。お金が貯まったら…祖父母の家に行こうと、思ってるの。お父さんが…そこに行くのを目標にしてて、祖父母の家にさえ行けば…なんとかなるって…私によく言ってたから…」
「…そうなんだ」
「今はまだ、お金が…目指してる半分くらいしか貯まってない。沢山働いてるし、お金も使ってないのに…まだ半分」
「………」
「…金額だって、大した額じゃない。祖父母の家に行くための新幹線代と電車賃だけなのに…。だから…ごめん。焦ってた」
「…もしどうにもならなかった時は俺が金出すよ」
リア・エイレーンが少し黙り込む。
「………そういう意味で言ったんじゃ…」
「ああ、人殺しには頼りたくないって?それでも別に結構。俺としても金は出したくない。かなりリスクのある選択肢だから。俺もそうだけど、お前にも危険が及ぶ可能性あるし」
ボスに見つかったら多分冗談抜きで終わる。
「…でも、あんた自分の金ないって言ってたじゃん。払えるの?」
「その程度払えるわ!ここにあるいらない家具家電売ればいいんだよ。それでなんとかなる」
「……そっか」
「ただしマジで最終手段だからな。この選択をするってなったら、ちゃんとリスクの説明とかさせてもらう」
「……」
「だからさ、そんな落ち込むな。バイトができなくなった程度だろ?自分で何か物売るなり、それも無理なら―――」
「それだ!!!」
「!?」
突然、リア・エイレーンが立ちあがる。
「え、あ、ど、どうした」
「それだよそれ!!天才!」
「ん?な、何が」
「自分で売店をやればいいんだ!」
…あ、物売るってとこに反応したのか。
「う、うん。でも売るものとかって決めて―――」
「決まってる!ちょっと素材取ってくるね!」
「お、おお」
「行ってきまーす!」
すると、リア・エイレーンはとんでもない速さで外へと出ていった。
「…立ち直りはや」




