64 矜持
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「その…さっきはありがとう」
気分が落ち着いたので、今更ながらお礼を言った。
「え~っと、シンが吐いてた時のこと?」
「うん」
「…どういたしまして」
リア・エイレーンは同じペースで歩きながら、こちらを見ずに答える。
「なんか、看病が上手だった。多分その道のプロになれると思う」
「大袈裟でしょ…。昔車酔いしたとき、お父さんにさすってもらったのを真似ただけなのに」
「…そうなんだ」
「そうそう。だから、私じゃなくて、真似した元のお父さんがうまかっただけかもしれないね。…もう確かめようもないけど」
「………」
不意に、リア・エイレーンの歩みが止まった。
つられて、俺もその場に立ち止まる。
「自慢の人だったんだ」
「……お父さんが…?」
「うん。頭が良くて、優しくて、よく遊んでくれた。…遊んでくれたのは、私が小さい頃の話だけど」
「………」
「ねぇ」
黒い髪を靡かせながら、少女が振り返る。
「あなたがお父さんを殺したの?」
微かに吹いていたはずの風が凪いだ。遠くの方で聞こえていた鳥の鳴き声がなくなって、数秒、時間が経ったと思う。
不自然な間が開いたことは確かだろう。万全ではないメンタルでこの問いに瞬時に返答できるほど、俺は強い人間ではなく、ぐるぐると回る思考の流れを制御するので限界だった。
……バレてる…?ならいつ…いつバレた?何で…どこでバレた?
冷や汗が止まらない。
それとも…試されてる…?もしくは、確信はないけど聞いてるだけ…?…バレてるのか?試されてるのか?あてずっぽうか?バレてる?試されてる?適当を言ってる?バレてる?試されてる?バレてる?試される?バレてる試されてるバレてる試されてるバレてる試されてるバレてる試されてる―――
言葉を紡ぐ前の時点で、思考が終わらない。
ただ突っ立っている俺を、リア・エイレーンは何も言わずにじっと見つめている。試しているのか、諦めているのか、憐れんでいるのか…よくわからない表情をしていた。ただ、沈む夕日をバックにしたその姿は綺麗だなと思った。
―――バレてる試されてるバレてる試されてるバレてる……違う!!それは重要じゃない!!大事なのは、俺は何を言うべきかだ!!いやでも、俺は何を言うべきだ?…リア・エイレーンは何を言って欲しいんだ?正直に言って欲しいのか?真相が知りたい?もしくは…俺じゃないはずって信じてて、俺に殺してないって言って欲しい?わからない…わからない…何て言えばいい…一体…。
というかそもそも、もう別に何言ったっていいんじゃないか?最初は、リア・エイレーンを助けるために…リア・エイレーンに自分の人生を生きてほしいから嘘をつくことを選んだ。父親が死んだ直後、精神が不安定な状態で、俺が君の父親を殺したなんて言ったら、リア・エイレーンの心をぐちゃぐちゃにしてしまうかもしれないから、嘘をついたんだ。
でも、今はどうだ。リア・エイレーンは確実に前に進み始めてる。精神的に多分、自立だってしてる。それにこの状況で明らかに怪しい俺に対して言及も何もしてこない。俺が彼女の父親を殺したという真実を受け入れる覚悟があるように思える。
なら、本当のこと言った方がいい。それで、もう関係を断とう。俺は十分彼女のことを助けた。これからは一人で―――
「俺、が…―――」
また…逃げるのか?
結論を導き出したことで思考がクリアになった時、ふと…思った。
手に負えないからってまた逃げるのか?俺は。
…違うだろ…!!
赤ちゃんの時も、そうだった。俺は逃げようとしたさ!でも、生きていて欲しいという気持ちだけは本当だったはずだ…!!
ならもう逃げるな!!相手の気持ちがわからないなら!せめて自分で置き換えて考えろよ!!俺がもし、リア・エイレーンだったら何て言って欲しい!!!俺は、俺になんて言って欲しい!!誰かに裏切られたとき、なんて言って欲しかったんだ!!!俺は!!
*****
でも、偽物でも良かったんだ。操り人形でも良かった。
…ただそれなら
それなら最後まで騙してよ…!
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「俺はやってない。…神に誓う」
目を逸らすことも無く、俺ははっきりとそう告げた。




