60 二人
◆◆メイ◆◆
「なんか…不思議な感覚だな」
「…何か言った?」
「いや、なんでも」
キセル・エイレーンがいた喫茶店から、家に帰って数時間。短い睡眠から起きた俺は、リビングのテーブルに座って朝食を食べていた。
目の前にいる、リア・エイレーンと一緒に。
「味は…どうですか」
「別に普通。悪くはないんじゃないの。…簡単な料理だし、下手に作る方が難しいとも思うけど」
「…そっすか」
俺が作ったベーコンエッグを、彼女はトーストと一緒に黙々と食べている。
「………」
しばらく、俺も無言で朝食を口に運んだ。
…久しぶりだな。誰かと飯食うの。
◆◆◆◆◆◆
「あの、これから…どうするつもりなの?…リア・エイレーンさんは」
ご飯を食べ終わったので、大事な…今後の話について聞いた。
「………」
返答は無かった。俺の質問が聞こえていなかったかのように、リア・エイレーンは食事を続けている。
「俺は…都市のところ行って、警察に保護してもらうのがいいんじゃないかなって…思うんだけど…」
「………馬鹿なの?」
少女の手が止まる。
「もしそれができるなら、私ここにいないでしょ」
「え、無理ってこと…?警察行くの…」
「無理。保護して貰おうにも、身元不明者には特別な検査があって、それで私が魔族だってバレる。バレたらすぐ殺される。だから無理」
「…でも、薬…あるじゃん。魔族とはいえ、あれ飲んでたら人食べなくていいんでしょ…?なら…」
「これ飲めば人殺さないですって言って、信じてくれるならね」
「………」
リア・エイレーンが、薬の入った瓶を手に取る。
「この薬はお父さんが、国が秘密裏に行ってた研究の副産物として作ったの。秘密裏の研究だから、この薬の存在は公になってない。あと、今の技術じゃ解析できないものが入ってるから、成分を分析しても何も出てこない。そんな薬のことなんて誰も信用しないよ」
「…しばらく人を食べない様子を、見てもらうとか…できるじゃん。そしたら…」
「悠長に待ってくれるわけないでしょ。私は魔族なんだから」
「………」
…じゃあ、どうするんだ…?これ以外のルート、俺…全然思い浮かばないんだけど…。
俯いている俺の正面で、リア・エイレーンが立ちあがる。
「心配しなくても、これからどうするかぐらい決めてる。あんたは黙って私に家を貸せばいいの」
そう言うと、ポーチを持って彼女は玄関に歩いて行く。
「ちょ、ど、どこ行くの!?」
「外」
「いやそうじゃなくて!まだ話したい事あるんだって!!これからも俺の家にいるなら、食費とかさぁ!」
「あぁ、それね。考えなくていいよ。これからは自分で稼いで食べるから。人殺して買ったご飯とか食べたくないし」
「…え、あ……」
とりつく島もなく、ガチャリと玄関扉を開けてリア・エイレーンは出ていってしまった。
「な、なんだよ…あいつ…」
人殺して買ったって…俺だって別に、そこに抵抗ないわけじゃないのに……。
「…まぁ、食費のこと考えなくてよくなったのは…安心…か」
しばらくリア・エイレーンが家にいるとして、ネックなのは彼女の食費だ。自分で稼がせるというのはあれだし、俺が何とかしたかったのだが、使えるお金が管理されているのでそれも難しいのだ。
というのも、俺は給料を貰っておらず、生活に必要なものは全てボスのクレジットカードで買っている。購入履歴は勿論ボスに見られているため、もし2人分の食事を買うようになったらすぐに怪しまれて、俺がリア・エイレーンを匿っていることがバレてしまう。だから結構悩んでいたのだが…。
「まさか、本人が自分で稼ぐって言うとはな…」
…まぁ、意外…でもないか。あいつ自分で全部なんとかしようとするタイプっぽいし。
「………てか、魔族ってなんなんだよ」
今までにそんな存在聞いたこともなかったが、世界が根絶目指してるとか、身元不明者への検査があるとか、なんかヤバすぎないか?リア・エイレーンも全然詳しいこと言ってくれないし。
「…ちょっと調べてみるか」




