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異世界なんて嫌いだ。  作者: うどんずるずるしたい
第二章 暗殺者編

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53/62

53 善性

 ◆◆◆◆◆◆


 誰もいない通りで夕焼けに背を真っ赤に染められながら、喫茶店の入り口に近づく。そしてドアを…


 コン、コン、ココンと叩いた。


 すると、ドアが開く。


 「も~、遅いよリア。お父さんすごく心配…あれ?誰もいない」


 開いたドアの陰に身を潜めて息を殺す。


 …仮説は正しかったみたいだな。やっぱり、()()()()()()を合図にして、ドアを開けるかどうか判断してるみたいだ。喫茶店からターゲットが出てきたときも、この『コン、コン、ココン』というリズムで少年がノックしたときだった。これは使える情報だ。


 「…おかしいな。確かに音が聞こえたんだけど」


 …やべ、怪しんでる。これターゲットにドアの裏側見られたら普通に俺がいるってバレるんだよな。

 もし見つかったら殺すか?周囲に人もいないし。でも流石にここでやると後処理がむずいか。それに、そもそも後処理してくれるクライルに今から暗殺するって連絡入れてないしな。とすると、もし見つかったら何も知らない子供のふりしてやり過ごすのが良さそう。


 対応を固めてからそのままじっとする。暇なので、できるならターゲットに俺のことがバレませんようにと祈った。


 「…人がいるようには見えないし、聞き間違いか」


 すると、ドアがゆっくりと閉じられた。俺の存在はバレなかったらしい。

 緊張から解放されてゆっくりと深く息を吐き出す中、安堵した感情の裏側で1つの疑念が渦巻く。


 今殺した方がいいんじゃないか。


 特定のやり方のノックを合図として、ドアを開けるかどうか判断している。これは使える情報であることは確かだ。ただ、暗殺の決定打にはならない。これと、また他の使える情報を組み合わせることでようやく暗殺の計画が立てられる、そいういう程度のもの。何が言いたいかというと、つまり暗殺を遂行するために俺はまだ情報を集める必要があるのだ。

 できるのか…?ここからさらに情報を集めるなんて。今回のターゲットは尻尾を出さないことを徹底しているように見える。今までは初日の張り込みで、使えるかどうかはともかく、もっと多くの情報を得ることができた。なのに今日の張り込みで得られたのはノックの合図、これだけ。初日でそこまで決めつけるのは早計だとも思うが、これ以上張り込んでも有益な情報を得られると…思えない。








 …本当は、ここまでの考えはこれからやることに対する言い訳なのかもしれない。


 


 …ただ、強い確信がある。





 今なら確実にコイツを()れる。





 喫茶店の入り口に耳を近づける。足音が離れているのを聞いてから、ナイフでドアの鍵を破壊し少しだけ開ける。

 隙間からこちらに背を向けているターゲットを確認し、扉を音が鳴らないように大きく開き、ターゲットへ駆ける。


 …なんて体が軽いんだろう。暗殺以外の余計な思考をそぎ落とすだけで、こんなにも―――


 不意に、脳に鋭い電流が流れた。


 「…ぃ…っ」


 力んだ拍子に右手の小指から強烈な痛みが走った。声にならない声を上げる。多分ターゲットには聞こえていない。


 「誰だ!?」


 にも関わらずターゲットが振り向く。相手は魔法使い(ソーサラー)だ。痛みによって生じた、足運びや気配の僅かな違和感で俺の接近に気づいたのだろう。


 だがもう遅い。相手の体勢が変わって、上の急所を狙っての即死は無理になったが、ここからなら胸が狙える…!!


 相手に二言目を発する隙も与えずナイフがターゲットの胸に沈み込む。


 「…ぐ…ぅ!!」


 すぐさまナイフを抜き、よろめき後ずさるターゲットにとどめを刺すため近づく。心拍は落ち着いていて思考も穏やかだ。


 …最初からこうすればよかったんだな。深く考える必要はなかった。仕事のターゲットには死んで当たり前の悪人しかいないんだから。


 ナイフを強く握り、目の前の、座り込んでいる死にぞこないに狙いを定める。


 …でも今回は、この人が何の罪を犯したのか伏せられてたな―――


 その時ターゲットと目が合った。なぜかとても…穏やかな目をしていた。










 「…とどめ…刺さないの…?」


 ターゲットに話しかけられる。


 「え、ああ…ごめん。ボーっとしてた」


 それで、自分がナイフを握ったまま硬直していることに気づいた。

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