51 深淵
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どれくらいの間そこに倒れていたかはわからない。クライルがいなくなってから一人、ずっとそこにいた。
ようやく体に力が入るようになったので、落ちていたナイフを拾って壁に寄りかかり、うずくまるように座る。
なんとなくナイフを握った。
刀身に反射する自分の目をじっと見つめた。
ゆっくりと切っ先を向ける。
そして勢いよく―――
*****
「メイは…生きて……」
*****
投げ捨てた。抜き身のナイフは音を発することもなく地面に突き刺さっていた。
「…なんで………」
…いつもそうだ。こういう時に限って、この声に邪魔をされる。
「…お前だって…こんなことしてまで生きろなんて…望んでないはずなのにな………ユウ」
◆◆二週間後 ボスの仕事部屋◆◆
「急に呼び出して悪いね。シン」
「いえ、別に」
ボスと向き合って返事をする。俺が会話をするときは、ボスは基本合間で作業をしているから、こう目を見て話されると少し気まずい。
「クライルから、最近シンが稽古をやっていないことを聞いてね。大丈夫?顔色が悪いけど」
「あぁ…大丈夫です。来週からは稽古やりますよ」
「そうかそうか。それならいいんだけど…ところで、体重って今どうなってる?」
「…量ってないので何とも言えません」
「じゃあ、今量ろうか。リビングに行こう」
ボスに連れられて、リビングに移動する。
「あった。これだ、体重計。ほら、乗って」
「はい」
平べったい体重計に乗って、数秒。体重が液晶に表示され、ピピピ、と音が鳴った。
「やっぱり体重が減ってるね。この前見た時よりも5㎏減ってる。規定体重を下回ってるよ。稽古に行かなかったのは許すけど、これはよくないね」
「すいません。戻します」
「早く戻してね。減った直後が一番戻しやすいから、今日の夜は沢山食べること。…また1か月後に量るから、その時までにもし規定体重を下回っていたら……1㎏ごとに1枚だ」
「…なにをですか」
「爪」
…あ?…は…?
「つ、爪………?」
「うん。あ、利き手までは剥がないからそこは安心していいよ」
「え………で…も…」
「わかるよ。痛いのは嫌だよね、怖いよね。でも、心配しなくていい。体重を戻せばいいだけだから。そうしたら、痛い思いもしなくて済む」
ボスが耳元でささやく。
「痛い思いをしたくないから食べるんだ。苦しみたくないから食べるんだ。大丈夫、シンは悪くない」
◆◆メイの家◆◆
机の上に大量に弁当が並んでいる。何を食べればいいのかわからないから、ボスの家の近くのスーパーで適当に買って、持って帰ってきた。帰る途中でこの大荷物がひったくられなかったのは奇跡だったと思う。
「………」
冷え切った食事を黙々と口に運ぶ。
「………は…ぁ…」
三つ目の弁当を食べているあたりで限界が来た。それでも食べた。度々吐きそうになった。でも、吐きそうになった直後は、一瞬気持ち悪さが無くなるので、少し楽だった。
「……ッ…ぅ……!!」
トイレに駆け込む。さっき無理やり流し込んだものが、そのまま口からでてきた。
「…あ~あ………もったいな…」
トイレットペーパーで口を拭いて、リビングに戻る。机の上にはまだ、沢山食べ物が残っていた。




