54 ボーイミーツガール
「ぼ、ボーっとしてた…?君は、変な奴だな…殺し屋のくせに」
「…!ち、違う!殺し屋じゃない…暗殺者だ。そんな、金のためなら無意味に人が殺せるやつらと一緒にしないでくれ!」
「そう?…違いなんてあるんだね。なら僕も、ただの…人殺しじゃなくなるのかな…」
…人殺し…か。
「…なんだお前。やっぱ悪人なのかよ」
躊躇って損した。
「ああ、もちろん。…そこでなんだけど。ここは同じ悪人同士、一つ頼みごとをしても…」
「知るか」
言葉を最後まで聞くことも無く、もう一度ナイフをターゲットに突き刺そうと―――
「娘を助けてほしいんだ」
「……はぁ…?」
ナイフが、額に触れる寸前で止まった。
「…頭イカれてんのか…?…お前」
「名前をリア・エイレーンと言ってね。ショートヘアーで黒い髪の、赤い目をした女の子だ。大体身長は君と同じくらいかな。朝に喧嘩しちゃって…今はいないんだけど、多分、今日中にここに戻ってくる」
「いや、だから…」
「あの子を一人だけ残して死ぬのは不安なんだ。きっと、あの子は一人でも生きていけると…僕は思ってるけど。でも少し事情があって…その道は険しく、孤独だろう。だからせめて君には、僕の娘の味方になって欲しいんだ」
「…話聞けよ。大体助けるなんて俺は一言も―――」
「助けるさ」
「…あ…?」
「僕は…波乱万丈な人生を送ってきたと思ってる。その道中、様々な人間に出会ってきた。…人を見る目くらいはあるつもりだ」
「…何が言いたい」
「君は、僕の頼みを断れない」
それは、取るに足らないような戯言だった。しかしその言葉は激しく俺の神経を逆なでにした。
「お前…!!!知ったような口ききやがって!!一体俺の何がわかるって……い……」
胸倉をつかもうと近づいた時、キセル・エイレーンが力なくうなだれる。首筋に手を当て脈がなかったことで気づいた。
「…死んだ、のか」
達成感や喜びはもう無かった。かといって悲しくもない。ただ…虚無感だけがはっきりと残っていた。
「…後処理しないと」
◆◆◆◆◆◆
後処理を終えてから、マンションに行ってボスに仕事が終わった報告をして、今俺は帰路についている。
「案の定、怒られたな」
日の沈んだスラムの路地を進む。
「ボスにしばらく仕事禁止って言われちゃった…。やっぱり独断先行はよくなかったんだ。あと適当な後処理も」
でもかなり褒められはした。結果的に後処理がうまくいっていたのと、キセル・エイレーンをちゃんと暗殺できたことが評価された。
「勉強してちゃんと後処理ができるようになったら、また仕事やらしてくれるらしいけど…」
それっていつになるんだろう。早ければ一か月でまたできるようになるとか言ってたけど。…まぁ、なんでもいいか。
「あれ…この道…どこだ」
何も考えずに歩いていたせいか、いつもとは違う帰り道に来てしまっていた。
「…少し来た道戻るか。…でもここ、どこかで見覚えがあるような…」
…そうだ、キセル・エイレーンがいた喫茶店近くの道か。ここ。
「うわぁ…まじか。あ~あ、やだやだ…こんなとこに近づくなんて。まるで俺があいつの言葉に影響されてるみたいじゃないか。さっさと迂回し―――」
…いや、それはそれでムカつくな。ここでわざわざ迂回なんてしたら、それは俺がキセル・エイレーンに言われたことを気にしているってことと同義じゃないか。本当に影響を受けていないなら、ここは逆に構わず突っ切るのが普通だ。
「…クソが。お前の思い通りになんかなるかよ」
キセル・エイレーンのいた喫茶店を離れてからもう何時間も経ってる。俺が離れた後、その娘が喫茶店に戻ったとして、そこにずっと留まっていられる訳がない。人攫いとかに連れ去られるのがオチだ。
そして、今この瞬間、俺が来るのと同じタイミングで喫茶店に娘が戻ってくることも考えずらい。どんだけタイミングいいんだよって話だ。
つまり俺があの喫茶店に寄ったところで、キセルの娘リア・エイレーンに出くわす可能性は限りなく低い。だから、この道を突っ切り、喫茶店前を通っても、そもそもキセルの望む展開には絶対にならない…!!
積み上げた論理と、渦巻く悪感情を燃料にして喫茶店のある通りを歩く。
「てか、あれだな。逆にキセルが死んでたところに行って、『お前の娘もう死んでるよ』って言ってやってもい―――」
息が止まった。
いた。
黒い髪のショートヘアーの女の子が喫茶店の前に。
「…嘘…だろ」




