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異世界なんて嫌いだ。  作者: うどんずるずるしたい
第二章 暗殺者編

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41 報告

 ◆◆タワーマンション内部◆◆


 ―――エレベーターから降りて廊下にでる。目的地は2034号室、ボスの拠点だ。


 何度来てもタワマンの雰囲気には慣れない。…こんなに煌びやかなとこ、俺には場違いだ。


 2034号室の前に着き、ドアノブの上のセンサーにカードキーをかざしてドアを開ける。

 出迎えられることも無く玄関を上がり、リビングに向かう廊下の途中にある部屋に入った。


 「…終わりました、ボス」


 「そうか」


 帰ってくるのは小さな返事。こちらには目もくれず、ボスは机の上に置かれた三台のモニターを、頬杖をつきながら見つめている。


 ここは、ボスの仕事部屋だ。向かって左側の壁には所々に赤い印が付けられた大きな地図が貼り付けられ、反対側の壁にはファイルが隙間なく並べられた本棚。中央には椅子と大きな机があり、そこにはノートパソコンやモニターなどの端末が整然と配置されている。


 「初めての仕事はどうだった?」


 「意外とうまくいきました。ただ、ターゲットを仕留めるときに少し…」


 「ああ、そうだね。あれはよくなかった。…でも、初めてそのナイフを使ったんだ。失敗しても仕方がない。次に活かしてね」


 「はい」


 「後でクライルに礼を言っておくといい、現場の後処理をしているのは彼だから。じゃあ、もう帰っていいよ”シン”」


 「はい」


 …シン、これは新しい俺の名前。一年前に名付けられた偽名だ。


 「あ、そうだ」


 「?…なんですか」


 「あの家の居心地はどうだい」


 「割と悪くないです」


 「ならよかった。呼び止めて悪かったね、もう行っていいよ」


 「はい」


 そうして報告も終わった俺は、ボスの仕事部屋を後にした。


 ◆◆◆◆◆◆


 ―――タクシーから降りて、人気のない住宅街を進む。今が深夜ということもあり明かりのついた家はほとんどないが、それでも、窓から微かに光の漏れている家がポツポツと存在している。

 だが、ある場所を境に住宅街から光が消えるのだ。それが境界で、そこから先が、この国サカルクの都市イロンドに存在する巨大なスラム……『ガナレ地区』。

 この地区はかつて開発が進められていたのだが近くの森に現れた狼の魔獣の被害によって放棄され、それ以来人が寄り付かなくなった場所だった。しかし、行き場を失った人間がここに住み着くようになり、その人口もだんだんと増え、バラックも増設されていき、いつのまにか巨大なスラムへと変貌してしまったのだ。

 そして、俺が住んでいるのもここだ。ちょうど一か月前、ガナレ地区にある木造の家をボスに与えられてから住み始めた。


 スラムで暮らすだなんて考えたことも無かったし、初めの頃は不安だったが、今のところなんとか生活できている。スラムで暮らすと言っても、俺の家はなぜか電気ガス水道が通っているし、食費はボスから支給されるから、かなり恵まれた環境ではあるのだが―――


 そこで、足が止まる。前方から気配を感じたからだ。

 混沌とした…何か禍々しくて、明らかに人間のモノではない異様な気配。


 咄嗟に物陰に身を潜めて、慎重に様子をうかがう。気配の位置を探るように視線を巡らせた。

 すると、その生き物が暗闇の奥から姿を現す。



 横に一メートル半はある巨大な体躯と、異様に肥大した爪を持った―――


 漆黒の狼。

 

 

 はみ出していた自分の頭をすぐに隠して、荒ぶる呼吸を必死で抑えながら気配を殺す。


 …!狼の魔獣…!…本当に出るのか…!!


 そう、元々この地区は”狼の魔獣の被害によって廃棄された場所”だ。だから、少なくない頻度で狼の魔獣の群れが現れる。度々夜間に出没して、その中でも特に、新月の夜に出てきやすいらしい。


 …そういえば、今日は新月か。…なるほど、どうりで、不気味なほど…人気が無いわけだ。…みんなどこかに避難したり、家の奥に隠れたりしてるんだろうな。

  

 狼の魔獣についての情報はボスから聞かされてはいたが、全然見かけないものだから油断していた。大事をとって、今日は家までのルートを少し変えよう。

 音をたてないように立ち上がり、進んできた道を戻る。ある程度戻ったところで狭い路地裏に入り、再び俺は自分の家へと歩いた。―――


 ◆◆◆◆◆◆

 

 「あ~、疲れた」


 無事家に帰ってきて玄関に入るなり、思わずそんな言葉が漏れた。鍵を閉めてから寝室に直行し、着替えもせずベッドに倒れこむ。そこで緊張の糸が完全に切れて、疲れと眠気が一気に押し寄せてきた。


 …もうこのまま寝るか。歯磨きは家出る前にしたし。


 本当に、今日はしんどかったな。初仕事の日なのに狼の魔獣と遭遇するとは、運が悪い。狼に関しては警戒してなかった俺も悪いけど、でも、俺にとってはあんまり脅威とは思わなかったからな。

 …取り乱すとは思ってなかった。忘れたと思ってたのに…姿を見た途端に、一年前のこと思い出すなんて。




 ……魔法使い(ソーサラー)と狼に襲われたあの時のこと。




 …。




 …いや、これ以上考えるな。…もう寝よう。


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