39 初仕事
◆◆一年後◆◆
午前0時を回ったスラム街の真っ暗な路地裏を、一人の男性がぶつぶつと何か言いながら早足で歩いている。
「いつまで経ってもここを通るのは慣れないぜ…」
名前はバガラ・フトフ。元はサラリーマンだったが、リストラされてから新しい仕事を見つけられず、最終的に麻薬売買に手を出してしまったらしい。
「だが、その代わり楽に稼げる…。一時はどうなるかと思ったが、人生なんとかなるもんだ…!!」
半年前から、そういう人間が増えていると聞く。デーニアとグラトアニアによる戦争のあおりだ。特にここはデーニアのすぐ南にある国だから、その影響は計り知れない。
「何とか金を貯めて、借金を返したら…!足を洗って―――」
…もし戦争が無ければ、この人を殺さなくて済んだのだろうか。
時刻を確認しながら暗闇の中で息を潜める。そして目の前を通った男の体格と顔つきを確認して―――
瞬間、男性が崩れ落ちる。
バタンと体が倒れた後に、遅れて、ゴロゴロと何かが地面を転がる音が響いた。
もちろん、殺ったのは俺だ。
「うわぁ…めっちゃ汚しちゃったな。…後処理はボスがやってくれるっつってたけど、これ怒られるかな…」
いくらここがスラム街だとはいえ、これはやりすぎ。本当はもうちょっとコンパクトにいく予定だったが、余計なことを考えていたせいで手元が狂ってしまった。
「…てか、このナイフ切れ味良すぎだろ。なんてもん持たせてんだよ…」
なんでも切れるとは言われたけど、比喩でもなんでもなかったんだな。こんなに楽に切れるだなんて。…間違えて自分の腕とか切らないように、慎重に扱わないと。
刀身についた汚れをハンカチで拭き取り、ナイフを太ももに巻き付けている鞘に納めて、フーっと息を吐き出す。
「…後はボスに報告か」
…いや、その前に身だしなみか。汚れがついてたらまずい。1回家に帰ろう。
◆◆◆◆◆
ブリキとトタンでてきたボロ屋がひしめく狭い路地を通った先。そこに、木でできた小綺麗な一軒家がある。経年劣化で木材は茶色に変色し古ぼけてはいるが、スラムにあるものにしては異質な程立派な建物…
これが、今の俺の家である。
「……」
言葉を発することも無く、鍵を開けて玄関に上がる。床板をギシギシときしませながら廊下を抜けて、リビングにある椅子に座った。
ずっと気を張っていたせいか座った瞬間にドッと疲れが押し寄せてきて、深いため息を吐きながら机に突っ伏してしまう。
「あ~、しんどかった……」
頭もなんだかフワフワしてるし、ずっと同じ体勢でいたせいか身体中が痛い。
まぁ…でも…。
「…意外と、平気だったな」
小さく呟いてからテーブルに置きっぱなしにされた飲みかけのペットボトルを手に取る。中身を飲み干してから、そのペットボトルはぐちゃぐちゃに潰してゴミ箱に投げ捨てた。
「…さて、身だしなみを確認しないと」
鏡の前に立って全身を確認する。
目立った汚れはないな。細かい汚れも。多分これなら大丈夫だろう。よかった。
…にしても、全然俺は身長が変わんないな。一年前…いや、二年前くらいから全く変わってない。顔つきもそうだ。この世界に来た時から成長が止まってるのかな?…まぁ、正直どうでもいいけど。
…そういえば、もうあれから一年か。




