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異世界なんて嫌いだ。  作者: うどんずるずるしたい
第二章 暗殺者編

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40 暗殺者

 **一年前**


 「さ、着いたよ。外に出ようか」


 「はい」


 …ようやく外の空気が吸える。


 乗っていた車から外に出る。するとそこは大きな地下駐車場が広がっていた。驚いたのは、並んでいる車がどれも高級車であること。


 すごいな。こんなの見たことない。


 その光景に疲れていた俺の脳が少しだけ冴えたが、しかしすぐに元に戻る。



 …そんなことではしゃいでられるほど今の俺には余裕がなかった。


 路地裏で暗殺者になると言ってしまったあの後から、予想通り散々な目にあって、もう疲労困憊だ。

 首の切り傷を闇医者に縫ってもらったり、この暗殺者の男と車に半日も乗り続けてデーニアの国境を越えたり、検問でひと悶着あったり…本当に、色々あった。

 …でも、これから経験することに比べれば、まだマシなのだろうか。


 「首は痛いか?」


 「…痛いです」


 「そうか、ならこれを渡しておこう」


 「…これは?」


 「鎮痛剤だ。痛みが強いなら飲むといい。一回一錠、効果は六時間、一日に飲めるのは三錠までだ」


 「あ、はい」


 「じゃあ、今から私達の拠点に案内するからついておいで」


 「…わかりました」


 …拠点…拠点ねえ。…なんとも暗殺者らしい言い方。


 考え事をしながら、男の後ろを歩く。白い光に照らされる無機質な空間の中を、淡々と。

 今現在俺がいるのはデーニアの南側に隣接した国、サカルク。そして向かう先はこの男の家だと、車の中で聞いた。なんでも、しばらく俺はこの男の元で暗殺者としての手ほどきを受けるらしい。


 …憂鬱だ。本当に俺、暗殺者になるのか…。


 足取りは、重い。でも歩けないほどじゃない。

 ただ、一歩進むごとに何かを失っているような感覚がした。―――




 地下駐車場の奥にあったエレベーターに乗って、そこから二十階まで上がる。

 その時気づいたのだが、ここはどうやらタワーマンションのようだ。高級感あふれるエレベーターの内装と、階数表示が五十階まであるのを見て気づいた。


 …いいところに住んでるな。もしかして、こいつって結構凄腕の暗殺者なのか…?


 目的の階へと到達し、会話もないままエレベーターから廊下へと出てその先へと進む。


 「ここだ」


 その時静かに歩いていた男が、2034という番号の書かれた扉の前で止まった。

 懐からカードを取り出し、それをドアノブの上にあるセンサーにかざす。ガシャリと音がした後に、男はドアノブをひねって扉を開けた。


 「靴は脱いで上がってくれ」


 言われるがままに靴を脱いで玄関に上がり、奥へと進んでいく。案内されたのは、大きなリビングだった。キッチンが一体となっており、家具は綺麗に配置され、床には埃一つも見当たらない。無駄のない、整った空間だった。

 そして、そこにはソファに座っている一人の少年がいた。こちらに背を向けて、ガラスのコップに入った水を口にしている。やがて水を飲み終えると少年は立ち上がり、男に軽くお辞儀をした。


 「…お帰りなさい、ボス」


 「ああ、ただいま。仕事はうまくやれたか?」


 「はい。いつも通りでした」


 「ならよかった」


 男がこちらに振り返る。


 「さて、じゃあ紹介しようか。連絡でも伝えたけど改めて…彼が新しい弟子だ」 

 

 「…こいつが?」


 「こらこら、人に向かって『こいつ』はやめなさい。これから長い付き合いになるんだから」


 「…すいません」


 「次から気をつけてね。…そうだ!親睦もかねてあの子に自己紹介しておいで、クライル」


 「はい」


 すると、少年がこちらに近寄ってきた。短く整えられた茶色の髪を軽く横に流した、どこにでもいそうな顔だちをしている。


 「初めまして、クライルです。年は17。よろしく」


 「…あ、よろしくお願いします」


 手を差し出されたので一応握手をしながら、それっぽい返事をする。

 …これは流れ的に一応俺も名乗ったほうがいいのだろうか。


 「…えっと、僕の名前は―――」


 「おっと、本名は名乗らないでいいよ」


 「…?僕も自己紹介したほうがいいんじゃ…」


 「本名は言わない、それがここのルールだ。クライルには、また会った時に自己紹介するといい」


 「…そう…ですか。でも、クライルさんは名前、僕に言っちゃってると思うんですけど」


 「ははは、確かにね。でも大丈夫、クライルっていうのは偽名だから」


 「…あ、なるほど」


 「そうそう。後で君にも付けてあげるよ。…じゃあ、私も自己紹介させてもらおうかな」


 男は着ているコートの襟を正して、俺の前に立つ。


 「私はフリーランスの暗殺者だ。それと後進の育成もしていてね、才能のある若者を一人前の暗殺者に育てる、ということもやっている。…今のところ弟子は君等二人しかいないけどね」


 …じゃあ、クライルは俺にとって兄弟子ってことか。


 「また私には名前が無い。だから、もし私を呼ぶときは”ボス”と呼んでくれ。以上だ。これからよろしくね」


 「…はい。よろしくお願いします…ボス」


 「うん。さて、今日はこのくらいで終わりにしようか。クライル、もう帰ってもいいよ。君もこの部屋を貸すからゆっくり休むといい。長旅で疲れただろう?体調を整えたら、明日から暗殺者になる訓練をしよう」


 「了解です」


 「…あ、はい」


 返事をすると、クライルは小さく頭を下げてから部屋を出た。


 「よし、じゃあ君にはこの部屋の紹介を軽く……ん?どうしたんだ、そんなに暗い顔をして」


 「…いや、別に…何でもないです」


 「…ああ、そうか。私と一緒にいるのが落ち着かないのか。なら安心するといい、私はすぐにいなくなるから」


 「……」


 「違うのか…」


 「……」


 「何かあるのなら正直に言ってもいいんだよ。私にはそれを最大限叶えることができると思う」


 ……。


 「なら、今ここで僕を殺してくれますか」


 「そうきたか。う~ん、それは無理かな」


 「ですよね。…なら大丈夫です」


 「でも死にたい理由を聞かせてもえらえれば、その原因をなんとかできるかもしれない」


 「…そんなの、これから人殺しになるからに決まってるじゃないですか」


 「…ふむ。なるほどね」


 「なるほどねって…そんなの最初からわかってたことでしょ。僕は、そもそも暗殺者になりたいだなんて一言も―――」


 「君は勘違いをしているみたいだな」


 「……勘…違い?」


 「君は、暗殺者とは何をする者のことだと思う?」


 「…それは、人を殺して、その見返りとしてお金を貰っている人のことじゃないんですか」


 「違うよ…全然違う。それは”殺し屋”だ。暗殺者ではない」


 「…え?でも、なら、暗殺者と殺し屋で…何が…」


 「勿論、暗殺者だって殺し屋と同じように、人を殺してお金を貰うよ。でもね、決定的な違いがこの二つの間にはあるんだ。それも、暗殺者にしかないものが」


 「…なんですか…それ」






 「”大義”だよ」



 *****

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