二十二話 ツーリングに行こう8
二十二話 ツーリングに行こう8
金田が借りてくれた湖畔の旅館の一室で着替えを済ませた月夜たちは、その旅館のレストランで金田たち親子と席を共にしていた。
「本当に重ね重ね申し訳ありません 正一は落ち着きがないから…… ほら、もう一度謝りなさい 」
「お姉さんたち、ごめんなさい 」
素直に頭を下げた正一に月夜たちは、気を付ける様にねと優しく言うと金田に、それでは僕たちはこれでと席を立った。金田と明子も席を立ち月夜たちを旅館の入り口まで送ってくれる。そして、月夜たちが見えなくなると二人は、ひそひそと話し始めた。
「やはり、彼らとは縁があるようだね 」
「そうですね あの方たち、どうも普通の会社員の方とは思えませんね 」
「ことによると…… いや、まさかな 」
「分かりませんよ、あなた 人は見かけによらないですから 」
両親が話している間、正一は聞かない振りをして黙々とオムライスを頬張っていた。
* * *
峠を下り山を降りてきた月夜たちは帰路につくため、有料道路に乗った。寅之助のエリミネーターを先頭に走っていたが、有料道路に入って直ぐのパーキングエリアにウインカーを点けて入って行く。バイクを停めると月夜たちは寅之助と睦美に走りよった。
「どうした? 何かあった? 」
トイレは寄ったばかりだし、バイクに慣れない睦美が体調崩したのかと心配する三人に向かって寅之助が申し訳なさそうな顔をする。
「いや、睦美が天然氷のかき氷か、れもん牛乳飲むってきかないんだよ 」
「どっちかにしろって言うから、一つにしたんじゃない 」
睦美は、何かという顔で一同を見る。
「このパーキングなら、れもん牛乳は置いてあるから、帰り道だし 」
寅之助の方が恐縮していた。
「れもん牛乳 私も飲んだことないから飲みたいです 」
忍が、賛成と手を上げる。トビも、僕も飲みたいかなと忍に同意するが、月夜は隣に停まっているバイクが気になっていた。CBX400。赤と白のタンクカラーの多いCBXだが、珍しい青と白のタンクカラーのこのバイクは、あの風魔伊織という女性のバイクではないかと気になっていた。
とにかく、みんなで売店に入りお目当てのれもん牛乳を探すと、冷蔵の棚にずらりと並んでいた。早速、睦美が手に持った買い物籠に、ぽんぽんと入れていくが、明らかにその数が尋常じゃない。
「お、おい、睦美。どんだけ買うんだよ 」
「えっ…… みんなの分と、あとはお土産 」
「お土産って、さっきも湯葉とかたくさん買って、もうそのリュックサック入らないだろう 」
「大丈夫 寅之助のバイク、大きなリアボックス付いてるでしょ 」
「えっ、そこには俺のお土産…… 」
「あんたのお土産なんて、キーホルダーでいいでしょ 会社のみんなにも買ってかなきゃいけないし 」
しょぼんとする寅之助が、あまりに気の毒だったので月夜たちが声をかける。
「あの、僕のリュックはまだ入るし、分けて入れれば大丈夫なんじゃ 」
「私のナップサックも、まだ余裕ありますよ 」
「僕のバイクにもリアボックス付いてるから入れられますよ 」
寅之助は、ありがとうとみんなの手を握り、それじゃ俺もお土産買ってきますと喜んで走っていった。
「寅之助くん、睦美くんの尻に敷かれている感じだね 」
「その方が平和でいいんですよ 」
忍が月夜の隣でグフグフと不気味に笑い、月夜は背筋が寒くなった。
土産を無事買い終わり、みんなでベンチに座ってれもん牛乳を飲んでいると、伊織が前を通りかかった。睦美が、すぐに気付き声をかける。やはり、あの青白のCBXは彼女のバイクだったのか、と月夜は思いながら、気になっていた事を訊いてみる。
「あの、風魔さんの会社に金田さんって方居ると思うんですが、知ってますかね? 」
「金田ですか…… 経理の金田課長かな ぼーっとしてて覇気のない感じの人ですかね 」
随分な言われようだと思いながら月夜は、探りを入れてみる。
「経理の方なんですか 実は先程知り合いまして、是非うちの会社で広告をというので、お伺いしようと思ったんですよ 」
「えーっ、でしたら私が伺います 課長より営業の私の方が色々便宜を計れますよぅ それに課長は細かいですから、私も何回も経費認めてもらえなくて自腹ですよ 」
「いや、それは経理の人なら当たり前なのでは…… 」
「えーっ、私も自腹ありますよ でも、そんな時は私はチーフに泣きついちゃいます そうするとチーフがなんとかしてくれるんですよ 」
「いや、睦美くん 君の経費、認めてもらうの大変なんだから程々にしてくれないと…… 」
「ちょっと、チーフ 睦美だけズルいじゃないですか 今度、俺の経費も頼みますよ 」
思わぬ方向に話がいき慌てる月夜だったが、なんとか話を元に戻す。
「そ、それでは、金田さんに挨拶してから、風魔さんに説明してもらいますよ 」
「分かりました 金田は就業時間中は社内に居ますが、私は出ている事が多いので事前に連絡頂けると助かります 」
「分かりました それでは、よろしくお願いします 」
ここで、お仕事の話は終わりと、今度は睦美がれもん牛乳を伊織に渡し話しかける。
「超美味しいですよ、れもん牛乳 ところで伊織さんはお酒は飲まれますか? 」
いきなりそんな事を訊くかという事を平気で訊く睦美だったが、伊織も、飲みますよ、もっぱらビール専門ですけどと平気で答える。
「じゃあ今度、一緒に飲みに行きましょうよ 安いお店知ってますから 」
「えっ、是非是非 私、友達いないから、いつも一人飲みなんです 」
「じゃあ、LINE教えてください 連絡しますね 」
睦美と伊織が嬉しそうにLINEを交換している姿を遠くからじっと見つめる目があった。そして伊織が、それではまたとCBXにまたがり走り出して本線に合流した時、伊織のインカムから声が流れる。
「あの者たちは何者ですか? 」
「敵ではないと思うけど、少し探ってみるわ 」
そう答えると、フォーンと気持ちのいい4気筒の音を響かせながら伊織はCBXを加速させていった。




