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月光ソナタ ~現代忍者奮闘記~  作者: とらすけ


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二十一話 ツーリングに行こう7


 二十一話 ツーリングに行こう7



 月夜たちは峠を登り切り、名瀑の駐車場にバイクを停め、三名瀑の一つを見学に来た。


「凄ーい 私、テレビでは見た事あるけど本物は初めてなんです 」


 睦美が感激して観瀑台から身を乗り出す。馬鹿、危ないと寅之助が後ろから羽交い絞めにすると、ぐえぇ何するのと睦美がハイヒールの踵で寅之助の足を踏みつけた。月夜とトビが、それを見て悲鳴を上げる。忍はグフフと変な笑いを漏らしていた。


「睦美くん、それは痛い 止めたまえ 」


「睦美さん もう許してあげて 」


 二人に言われ睦美が足をどけると、それまで激痛で絶句していた寅之助が、今度は睦美の腰に両手を回すと、うりゃーと気合と共に睦美の体を持ち上げる。そして、そのまま後ろにブリッジのように睦美の体と共に倒れていく。


「バックドロップ? 嘘だろ? 忍くん、早く助けてあげなさい 」


 忍は、はいと睦美の頭が激突する位置にごろんと横になる。えっそれで大丈夫なのと心配する月夜とトビだったが、睦美は両腕でブリッジするように頭を守り、そのまま身を翻すと、スタっと立ち上がった。寅之助も素早く起き上がり、二人は視線で火花を飛ばす。


「こら、寅之助 なにするんだ 」


「てめえ、睦美 お前こそ、なにすんだ 」


 はい、もうそこまでと月夜がパンパンと手を叩く。睦美と寅之助は、ハッと我に返り照れくさそうに頭を下げる。何が起こるのか期待して見物していたギャラリー達は、もう終わりなのか詰まらないという顔でばらばらと歩き出していた。


「君たち、仲いいのはわかるけど、時と場所をわきまえてください 」


 月夜に小言を言われ、二人はすいませんと頭を下げる。と、そこへいい匂いが漂ってきた。


「アユの塩焼き あれ、食べよう、寅之助 」


「ああ、やっぱり、山に来たら、アユの塩焼きだよな 」


 二人は売店に向かって駆け出していった。


「あの二人、本当に仲良しですね 」


「ああ、そうだな…… 」


 月夜は、何か言いたそうな感じだったが、そこで言葉を飲み込む。が、トビが月夜の言いたかった事を言い当ててしまう。


「睦美さんって、何者なんですかね? 」


 月夜は職場での睦美以外、たまにみんなで飲みに行く程度しか彼女の事を知らない。謎の自販機を見つけたのも、あの海鮮居酒屋で日時や席を決めたのも、金田を助けに真っ先に飛び出したのも、全て睦美だった。まさかな、月夜は頭を振るが一度芽生えた疑問はなかなか拭えなかった。


「ちょっと、あの人見て、寅之助 」


 睦美が指さす先には、両手でアユの塩焼きを六本持った若い女性がいた。寅之助が、家族の分だろと気のない返事をすると、その女性はいきなりバリバリと六本のアユの塩焼きを食べ始めた。そして、あっという間に食べつくす。睦美と寅之助が、目を丸くして見ていると女性は、売店に来て二人の見ている前で、アユの塩焼き六本くださいと言い、焼きあがっていた塩焼きを全て購入してしまった。あーっと二人が悲し気に声を上げると女性は、気が付いたというように二人を振り向き、にこりと微笑む。


「あの 何か? 」


「すいません よかったら、そのアユの塩焼き 二本譲ってもらえませんか 」


 睦美が、もみ手をしながら女性に頼みこむ。


「あっ、ごめんなさい 私、全部買ってしまったから 」


 気分を害した様子もなく女性は、睦美にアユの塩焼きを二本渡してきた。ありがとうとお金と引き換えに受け取った睦美は、寅之助に一本渡し、すぐに塩焼きにかぶり付きながら女性に話しかける。


「アユの塩焼きがお好きなんですね 拝見してたらけっこうお食べになっていたので 」


「やだ、見てたんですか 恥ずかしい 山の方に来ると条件反射で食べたくなるんですよ 」


 女性も気さくに睦美の話に乗ってくる。寅之助、そっちのけで話に夢中になっている睦美を置いて寅之助はさっさと月夜たちのところへ戻ってしまった。しばらくして睦美が、ごめんなさいと謝りながら戻ってくる。


「すっかり、話に夢中になちゃって…… 彼女、風魔伊織さんって云うんだって HONDAのCBXってバイクに乗ってるんだってよ 」


 睦美が自慢気に言うと寅之助が、いいバイクじゃんと反応する。月夜と忍は、寅之助と笑いながら話している睦美をじっと見つめていた。



 * * *



 山の上にある湖の畔にバイクを停めた月夜たちは、湖畔の遊歩道をぶらぶらと歩いていた。山の風が気持ちよく吹きわたり、湖の水面に太陽の光が反射しきらきらと輝いている。何艘かのボートや白鳥型の乗り物が湖に浮かぶ、のどかな光景だった。


「チーフ 私たちもボートに乗りましょうよ 」


 忍の言葉に月夜も久しぶりにボートに乗りたい欲求が高まってきた。


「よーし、みんなで少しボートに乗るか 」


 全員、即座に賛成するが、睦美が、私、ボート漕いだことありませんと手を挙げる。そこで寅之助が睦美を一緒に乗せることになり、トビはカトリーヌと一緒で月夜と忍は別々に乗ることになった。忍は思惑が外れて、ちっと小さく舌打ちをしていたが幸い気付いた者はいなかった。


「あそこまで競争しよう 」


 月夜の号令で四隻のボートが一斉に湖面を滑り出す。なんと、トップに出たのは、トビとカトリーヌのペアだった。二人は横に並んで座り、お互いに一本ずつのオールを高速で回転させている。そのスピードに月夜も忍も目を丸くする。そして、負けじとボートを漕ぐが、とてもトビ、カトリーヌペアには遠く及ばなかった。


「凄いじゃないか、トビくん 完敗だ 」


「ふふふ 僕とカトリーヌの力を舐めてもらっては困ります 」


「これ、反則じゃないですか 」


 三人が話している時、寅之助はヒイヒイ言いながら、まだ三人の遥か後ろでボートを漕いでいた。その時、睦美が何かを指差し叫んでいるのが三人に見えた。そして、睦美が指差す方を見ると、近くを通っていった遊覧船から落ちたとみられる人が、湖面をばしゃばしゃと叩いている。月夜、忍、カトリーヌがすぐに湖に飛び込み、落ちた人に向かって泳いでいく。距離的に一番近かった忍が真っ先にたどり着き、落ちた人の背中から抱え上げ背浮きになるようにし落ち着くように声をかける。落ちたのは子供のようだったが、忍が声をかけるより早く自分で背浮きをし動揺することなくぷかぷかと湖面に浮いている。先ほどまでの慌てぶりが嘘のようであった。子供は浮きながら忍の顔を見る。忍は、その顔に見覚えがあった。


「君は、正一くん 」


「しっ 大きな声を出さないで お姉ちゃんたち、狙われているから気を付けて 」


 それだけ言うと正一は、目を閉じて溺れたふりをして、もう何も喋らなくなった。続けて泳いできた月夜とカトリーヌも正一の顔を見て驚きを隠せなかった。


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