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君と歩いた、ぼくらの怪談 第2部  作者: tempp
第7章 ぼくらの夏休み

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15/21

籠屋山へハイキング(1)

「東矢、準備はできたか」

「うん、大丈夫。行こうか」

「ああ、けど、ルートは安全なところしか行かないぞ、死ぬからな」

「わかってる」


 僕らは籠屋山(かごややま)でキャンプする。籠屋山は僕らの学校のある新谷坂山の一つ西奥の山だけど、標高が2058メートルと桁違いに高い。新谷坂山はだいたい300メートルちょっと。僕らは山頂までは登らずに、籠屋山の1200メートルくらいのところでキャンプを張る。キャンプ場があって、山小屋で場所代を払えばテントを立てられる。

 僕の父さんはキャンプが好きで、よく2人で山に登ったけど、友達と2人で登るのは初めてだ。夏休みに入る直前に計画を立てて、父さんに軽量フレームのテントを送ってもらった。それを2人で分けてリュックに担いでいる。


「何、キャンプ行くの?」

「ええ、籠屋山のキャンプ場まで」

「ああ、最近変なことが起こったって聞いたからさ、気をつけて行ってくるんだよ」

「わかりました。ありがとうございます」


 藤友君は寮の守衛さんと仲がいい。僕はスルーされる。なんだか羨ましい。

 変な噂。僕らはそれを調べに行く。そこに僕の解放した怪異が関係している可能性があったから。


 籠屋山キャンプ場事件。

 キャンプ場でテントを張る。朝になると片付けられていないテントが1つ残る。不審に思った管理人がテントの中を覗いたら誰もいない。テント場使用管理簿にも記載がない。残った荷物にも住所氏名が記載されたものはない。

 でもこれはおかしいんだ。山に登る人は大抵自分のものに名前を書いている。それはもう習慣みたいなもの。

 たまたまならともかくもう事件は15件。そんなに名前がない登山者ばかりが続くわけがない。


 僕と一緒に来てくれるのは藤友君。

 でも藤友君は恐ろしく運が悪いから、最初山に入るのに難色をしめされた。これは僕の事情だし、キャンプは結構なれてるから1人でもいいやと思ってたけど、結局一緒に行ってくれることになった。キャンプ場までは道が整備されているし危険なことはないだろうって言ってくれて。


 でも実際は何故か結構危険だった。落石が降ってきた。落石なんて始めてみた。

 僕には全然聞こえなかったけど藤友君にはカラカラと小さな音が聞こえたらしい。だから僕は首根っこを掴まれて全速力で走らされた。そのしばらくあとに、丁度僕らがいたあたりを80センチ大の落石が転がっていった。あれ、当たったら大怪我だよね。骨折は免れない。胃がキュッとした。

 あと、蜂の巣が登山道のすぐ近くにあった。スズメバチの巣。木の上とかにもあるけど土の中にもあるんだ。これも道のすぐ近くにあって、危うく僕が踏むところだった。何でわかったのって聞いたら、カチカチっていう音がして土の色が違っていたみたい。音なんてしたかなっていう感じだし、土の色も言われて初めて気がついた。その情報は山小屋に伝えて感謝された。

 こんなふうに藤友君は凄く注意力が高くて運が悪い。


 そうこうしてようやくキャンプ場までたどり着いたころには3時を過ぎていた。このキャンプ場ではちょっと高いけど水が買えて便利。大変なところだと水くみだけで片道1時間以上かかったりするし、その場合は昼過ぎにつかないと山は暗くなると危険なんだ。


 山小屋でお金を払ってテントを設置する。設置はキャンプ経験の多い僕のほうが得意だと思っていたんだけど、なんか藤友君手早かった。勝てるところがない……。 

 今日の晩ごはんはゴロゴロチキン入りパスタ。下味のついたチキンとパスタソースは藤友君が作ってきてくれたから、パスタを茹でてそれに絡めるだけ。でも夏の山で食べるキャンプ飯って格別で、着火剤で火を焚いて、コッヘルで仕上げにチキンを焼くとジュウジュウとした香ばしい香りが漂った。ちょっと加えたマスタードの香りがたまらない。藤友君は手慣れた流れで料理を仕上げる。僕は生野菜を切る。すごく楽しい。フリーズドライのスープも用意しよう。

 チキンと生野菜は明日残ったらホットドックみたいにパンにつめて食べるんだ。


「こういうのは初めてだ」

「キャンプ?」

「ああ」

「そういえば前にも言ってたね。機会がないとあまりこないのかも」

「東矢は1人でキャンプしたりするのか?」

「1人で宿泊とかはまだないかなぁ。でも山に登るのは好きだよ」


 カップにミネストローネのもとを入れてお湯を注いで藤友君に渡す。かわりにパスタを受け取る。


「でもその、友達とキャンプするのは初めて」

「そうか」


 山は日が落ちるのが早い。

 ご飯を食べるころにはもう世界は不思議な色合いにに染まっていた。キャンプ場は籠屋山の東側斜面にあるから日は背後に落ちる。空気は不思議に透き通っている。今日は曇が出ていてその雲の上のほうは紺とうす紫の夜の色に染まり始めている。遠くに見える神津湾の海も暗い藍色に染まっていて、それに続く人が生きる地面は既に黒くチカチカと小さく電気の明かりが瞬いている。その薄い青と黒の間に挟まれた狭い空間だけ日を照り返した鮮烈なオレンジ色と赤紫が入り混じっていて幻想的で、なんとなく空と地面の間にいる感じがした。

 随分遠くの辻切の夜景はいつも新谷坂から眺めているのとは少し違って霞んでいる。不思議な感じ。


「雲海が見えたりはしないんだな」

「そうでもない。タイミングかな。今日は低いところに雲がないだけかも。放射冷却があると見えるから明日の朝とかは見えるかもね」

「そうか」

「雲海見たいの?」

「そうだな、見たことがない」


 日がすっかりおちると今度は雲が晴れてきて奇麗な天の川が見えてきた。最近新谷坂山で星を見ることも多かったけど、段違いの星空の暗さと星の数。お盆前くらいになるとペルセウス座流星群が奇麗に見えるらしいんだけど、また登りたい。そんな空。

 手早く食器を片付けてコーヒーをいれる。インスタントを小分けで1杯づつ持ってきた。たくさん。僕らはここで交代で徹夜するからカフェインが必要。パチパチと爆ぜる焚き火だけじゃ少し明かりが足りないからライトをつけてゲームする。can't stapっていうボードゲームで、ダイスを2つ振って山を登る。山小屋の消灯時間が近づく8時半ごろには灯りは消して、星空を見ながら話をした。


「本当に外で見張ってるの?」

「ああ。何かが襲ってくるタイプならテントの中は致命的だ。外が見えない」

「何かいそうな感じ? 僕はよくわからない」

「何かの気配はするんだがそれが何かはわからないな」


 封印から逃げ出した怪異と僕は封印の糸で繋がっているから、近くにいればなんとなくわかる。僕もなんとなく何かが近くにいる感じはするけど、どこにいるかは相当近くにいないとわからない。藤友君は変なものがいると嫌な予感がするそうだ。今はそれを感じるらしい。

 外で見張るのはいいところと悪いところがある。いいところは藤友くんが言う通り襲われる場合の危険性が減る。けれども見張っているのがわかるから、怪異が近寄ってこない可能性がある。出会えないと目的は達成できない。

 だから1日目は外で見張り、2日目はテントの中で見張る予定。ふあぁ。


「先に寝ていいぞ」

「でも」

「2人で起きてても無駄だ。寝ろ。しばらくたったら起こす」

「んん。わかった、それじゃあ先におやすみなさい。コーヒーはそこにセットしてあるから適当に飲んで」

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