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反撃

「おい、ちゃんといるか……」

「ああ、いるさ。しかし、いつ通っても嫌な通路だぜ」

「あの鏡は特に嫌な気配を感じて嫌だわ」

 ぶつぶつ話しながらやって来た3人の懲罰人たち。話さないと地下通路を通って移動するのは怖いのだ。3人はやっと別館の下へ通じる階段にたどり着いた。


「それじゃ、行くか」

「生意気なガキを泣かすショーの始まりだ」

「ヤッホー、わくわくするね」


ゴゴゴ……。像を動かして懲罰人の3人が別館に侵入してきた。手にはつりざおに括り付けられた怖い人形、犬の仮面をもっている。女はここであの歌を歌い始める。


夜の静けさにわらわは歌う

闇夜に照らされた古木に刻む。それは悲しみに歌。

一つの悲しみを幹に刻み、1つに怒りを幹に刻む。

幾年と……樹は私の苦しみを記憶に刻んで数百年。

鎖につながれ数百年。

今もわらわは一人で歌う。悲しみの歌を……。

 

1曲歌い、そしてもう一度繰り返して進もうとした時だ。ガシャンと何かが割れる音がした。驚いて音のした方向を見る3人。歌が途中で途切れた。


「な、なんだ!?」

「何かが割れた音?」

「あ、あれじゃないか、あの窓際の花瓶……」

 男が指さす方向には小テーブルから落ちた花瓶が床で割れて転がっているのがあった。

「花瓶か……」

「いや、おかしいわ。なぜ、花瓶が落ちたの!?」

 館内には風もない。テーブルから落ちる原因がない。


「ふははははっ……」

 突然、笑い声が玄関ホールに響く。3人は思わず立ちすくむ。

「な、なに!」

「誰かいるの?」

 声は男の声だ。この館にいるはずがない声である。

「あ、あれは?」

 懲罰人の男が指さす方向は2階の窓に鬼のような影が映っている。これは仮面を被った豆蔵のシルエット。絶妙のタイミングで映り込んだようだ。

 影は大きくホールの床に映り込んだ。3人はビビって動けない。


「ば、馬鹿な……この別館に本物の魔物が出るなんて」

「うっ……」

「ど、どうしたの!」


 1人の男が急に意識を失った。慌てて抱きかかえるもう一人の男。この状況に女の方は軽いパニックになっている。

(ふう……魔法発動。眠りの魔法で朝まで眠ってなさい!)


 物陰から放った私の魔法の効果である。眠っているだけだが、突然に気を失ったとしか思えない。

「い、いるんだわ……本当にこの館には」

「い、いるはずないだろう。正体は俺たちだし……うあっ!」


 突然、天井から紐にくくられたものが10体ほど落ちてきた。それはてるてる坊主。私が豆蔵に作らせたものだ。それぞれを天井に吊るし、私の合図で豆蔵がまとめた紐を切れば、上から落ちてくるという寸法だ。昼間見れば特に驚くことがない悪戯だが、今の状況では十分に大人が驚く演出になる。


 さらに懲罰人の二人は玄関ホールの真ん中に女の子が倒れていることに気づいた。


「な、なんなんだよ」

「怖い……あの動き……変よ」


 この女の子は私。人形のようにゴスロリ風のドレスを着てうつぶせで倒れていたが、足と手をぴくぴくさせて、ゆっくりと立ち上がった。操り人形のようにぎくしゃくした動きが見事な演技。


 コキコキ……パタン……ギギギ……。


 こんな擬音がBGMとして流れそうなマントマイム的な動きをするゴスロリの私。これは動きだけで怖い。怖すぎる。


「助けて……助けて……私……殺されてしまったの……」

 胸には包丁がささり、口からは血を流す。もちろん、メイクと私のプロ級の演技。これがとどめになった。懲罰人の2人は半狂乱になる。


「うあああああああっ……」

「きゃああああああっ……」


 もう私を脅かす道具は捨てて、眠った男を背負い、元来た道を逃げ出す。だが、慌てていたので、秘密通路に入った階段をつまずいた。男を背負った方はそのまま転がり、気絶してしまう。女の方は転げ落ちたが、受け身を取れたようで再び走り出した。


「待て~っ。待つのじゃ~」

 私は大きな声でそう叫ぶ。その声は地下通路に響いて、一層不気味なものになる。もうそれだけで大の大人が泣き叫んで走っていく。


 私は彼女を追う。脅かすなら徹底的にやる。どうせ、こいつら、立場の弱い遊女たちを面白半分に脅してきた奴らだ。

(これまで脅されてきたみんなの恨みを晴らしてくれるわ……)

 私も面白くなってしまった。肝試しというのは脅かす方が無性に楽しくなるものだ。


しかし、これが結果的に裏目に出てしまう。

 驚き過ぎた女は、めちゃくちゃに走り出し、暗い通路から外れてあの廃墟の礼拝堂跡に入り込んだ。そして壁に設置してあった青銅の鏡に体当たりしてしまったのだ。


 頭から血を流してそのまま気を失ってしまった。

「あら、もうおしまいですか……」


 私の予定では逃げ帰ってしまうはずだったが、3人とも戦闘不能で気を失うという結末になってしまった。まあ、目標からするとこれも悪くはないのだが。


「ミコト様……何か変デゴザル」

 地下通路まで私を追ってきた豆蔵が青銅の鏡を指さした。女がぶつかった拍子で布が外れ、鏡面部分が現れてしまった。青銅であるからにぶい反射に何か映っている。


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