第九章 最後の勇者
荒野。
三人の戦いは続いていた。
聖剣が振り抜かれる。
巨大な斬撃。
影虎は紙一重でかわす。
その瞬間。
白虎の刀が迫る。
勇者は咄嗟に聖剣で受け止めた。
ガキィィン!!
衝撃で大地が砕ける。
勇者は後方へ吹き飛んだ。
「くっ……!」
地面を滑りながら、なんとか立ち上がる。
息が荒い。
魔力も減り、身体中に傷が増えていた。
だが。
目の前の二人も同じだった。
影虎も。 白虎も。
血を流している。
それでも。
立っている。
刀を握っている。
勇者は震える手を見る。
「……なんでだ。」
「なんで……こいつらは倒れねぇんだ……。」
聖剣を握り直す。
「俺の力は……世界を救った力だぞ……。」
影虎は静かに刀を構える。
「まだ終わっていない。」
白虎も笑う。
「ああ。」
「ここからだ。」
勇者。
「……化け物め。」
(……くそ、もう魔力が……。)
その時だった。
背後から声が響く。
「勇者様!!」
勇者が振り向く。
そこには村人たちがいた。
「頑張れー!」
「勇者様!」
「負けるなー!」
村人たちは信じていた。
勇者が、自分たちを守ってくれていると。
「勇者様!」
「死んでなかった!」
「療養していたんだ!」
「まだ完全に治りきってない体で、あの怪物たちから我々を命がけで守ってくれているんだ!」
「頑張れー!勇者様ぁぁ!」
「頑張れー!頑張れー!」
勇者は目を見開いた。
「み……みんな……。」
その声が。
胸に響く。
「そうだ……。」
「俺は……。」
拳を握る。
「俺は勇者だったんだ。」
いつからだろう。
名誉。
称賛。
人からどう見られるか。
そんなものばかりを気にしていた。
でも。
今は違う。
目の前にいる人たちを守りたい。
勇者は気付く。
皆の応援が。
力になっていく。
「……こんな気持ちは、いつぶりだろうな。」
「そうだ。」
「俺は勇者だった。」
「いつしか世間面しか気にしない汚れた人間になっちまっていた。」
「でも今は違う。」
「今なら……皆を守れる!」
勇者は聖剣を握り締める。
「そうだ!」
「俺は皆を守る勇者だ!!」
「こんなところで負けられるかァァァァ!!」
村人たち。
「頑張れぇぇぇ!!」
「勇者さまぁぁぁ!!」
「勝ってくれぇぇぇ!!」
勇者は笑った。
「感謝するぜ。」
「二人とも。」
影虎と白虎を見る。
「お前たちのお陰で……。」
「本当のあるべき姿を……」
「本当の俺を取り戻せた!」
聖剣が輝く。
「いくぞぉぉぉ!!」
「みんなぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
村人たちの声が荒野に響く。
「頑張れぇぇぇぇ!!」
「勇者さまぁぁぁ!!」
そして。
村人と勇者は一つになった。
その瞬間。
スパンッ。
静寂。
村人。 「……ん?」
勇者。 「……ん?」
白虎は刀を収める。
「うるさい。」
「目障りだ。」
勇者の身体がゆっくり傾く。
首元から血が落ちる。
勇者はその場に崩れ落ちた。
村人。
「えぇぇぇぇぇ!?」
「勇者様ぁぁぁぁ!?」
「いや、ちょっと待って!?」
「さっきまで完全にこっちのターンだったじゃん!?」
「勝てそうな雰囲気だったじゃん!?」
「覚醒してたよね!?」
村長は静かに呟いた。
「……こんなこと……あるんだな……。」
影虎と白虎は倒れた勇者を見る。
影虎。
「片付いたな。」
白虎。
「ああ。」
白虎は勇者の頭を掴む。
そして。
村人たちの方へ投げる。
村人。
「うわぁぁぁ!?」
白虎。
「さあ。」
「次は俺たちの番だな。」
影虎を見る。
「影虎よ。」
村人。
「……。」
村長。
「……。」
沈黙。
そして。
村長は叫んだ。
「もう帰ってくんない!?」
影虎と白虎は顔を見合わせる。
村長は覚悟を決めた。
「……仕方ない。」
「10年分の魔力を使う。」
村長の身体から膨大な魔力が溢れ出す。
光が二人を包む。
影虎。
「また会おう。」
白虎。
「次こそ決着だ。」
次の瞬間。
光が消える。
影虎と白虎の姿はなかった。
村人。
(魔法……まだ使えたんだ……。)
こうして。
異世界を揺るがした二人の剣士は。
元の世界へ戻っていった。
ーー
気付くと江戸。
白虎 「妙な世界だったな」
影虎 「ああ」
白虎 「だが悪くなかった」
影虎 「そうだな」
そして二人は再び刀を構える。
――完。
◼️第十章 村長の秘密
村長は静かに目を閉じた。
「……仕方あるまい。」
杖を掲げる。
「10年分の魔力を使う。」
次の瞬間。
膨大な魔力が村長の身体から溢れ出した。
まばゆい光が影虎と白虎を包む。
影虎は笑った。
「また会おう。」
白虎も不敵に笑う。
「次こそ決着だ。」
光が弾ける。
そして――二人の姿は消えた。
静寂。
村人たちは呆然と立ち尽くしていた。
村人。
(魔法……まだ使えたんだ……。)
やがて一人が口を開く。
「……終わったんですね。」
村長は大きく息を吐いた。
「ふぅ。やっと終わったわい。」
村人たちは慌てて駆け寄る。
「村長!」
「ん?」
「10年分もの魔力を使ったのですよね!?」
「そうじゃな。」
「我々でも一生かけて1年分の魔力を蓄えられるかどうかです!」
「今後の生活は大丈夫なのですか!?」
「洗濯でも掃除でも畑仕事でも何でも手伝います!」
村長は嬉しそうに頷いた。
「おお、それは助かるのう。」
村人たちは涙ぐむ。
「村長……!」
村長は頭をかいた。
「まあ、でも大丈夫じゃよ。」
「ん?」
「まだ300年分くらい魔力残っとるし。」
沈黙。
村人たちの動きが止まった。
「……は?」
「ん?」
「300年分?」
「うむ。」
「300年分!?」
「チートじゃねえか!」
村長。
(あ、しまった。)
村長。
「あー、今のなし。」
「聞かなかったことにしてくれ。」
村人。
「無理です!!」
「なんですか300年分って!」
「聞いたことありませんよ!」
「国王様でもそんな魔力持ってませんよ!?」
「なんで今まで使わなかったんですか!?」
村長は少し考えた。
「いやあ。」
「老後のため?」
村人。
「老後長すぎるだろ!!」
村長。
「それに大きい魔法は疲れるしのう。」
村人。
「理由が最低だ!!」
村長。
「それに魔力のこと言ったら色々頼まれそうじゃし……。」
村人。
「その通りだよ!!」
村長。
「まあまあ。」
「めんごめんご。」
「てへっ。」
村人。
「全然可愛くねぇぇぇぇぇ!!」
――それから。
村長は村人たちに捕まり、村の復興のため100年分の魔力を使わされたという。
その際、死者を甦らせる伝説級魔法まで使ったとか。
なお、まだ200年分残っていたらしい。
おしまい。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
影虎と白虎が異世界に召喚されたらどうなるのか――そんな発想から始まった物語でした。
勇者として呼ばれたはずの二人が、なぜか魔王軍と竜王軍の頂点に立ち、最後は勇者と戦うことになるという、少し変わったお話でしたが、楽しんでいただけたなら嬉しいです。
応援や感想をいただけると今後の励みになります。
ありがとうございました。




