第一章 勇者召喚
勇者召喚――その言葉から始まる、よくある異世界物語。
……のはずでした。
召喚されたのは、二人の侍。
そして彼らが向かった先は、勇者の道ではなく――。
二人の剣士が異世界で巻き起こす、少し変わった物語です。
楽しんでいただければ幸いです。
江戸の山奥。
風が吹く。
草木が揺れ、鳥たちは気配を察したように飛び去っていた。
その場には二人の男が立っている。
一人は黒い着物をまとった侍。
長い黒髪を後ろで束ね、鋭い眼光を相手へ向けている。
人斬り影虎。
その名を知らぬ者はいない。
そしてもう一人。
白い着物をまとった侍。
白髪を後ろで束ね、腰に差した刀へ静かに手を添えている。
その目には、獣のような殺気が宿っていた。
人斬り白虎。
こちらもまた、名の知れた剣豪であった。
二人は長年戦い続けてきた。
互いを認めながらも、決して譲れない信念がある。
だからこそ――
決着をつけなければならない。
風が止んだ。
静寂。
影虎がゆっくりと口を開く。
「長かったな。」
白虎が鼻で笑う。
「そうだな。」
「今日こそ終わらせる。」
「望むところだ。」
二人は同時に刀へ手をかけた。
次の瞬間。
地を蹴る。
ギィィィン!!
激しい金属音が山中へ響き渡る。
刀と刀がぶつかり合う。
一撃。
二撃。
三撃。
互角。
影虎の斬撃を白虎が受け流し、白虎の突きを影虎がかわす。
常人には見えない速度。
一歩間違えれば死。
それでも二人は笑っていた。
強者との戦い。
それこそが至福だからだ。
「どうした影虎!」
白虎が叫ぶ。
「その程度か!」
「まだ始まったばかりだ。」
影虎は踏み込み、鋭い斬撃を放つ。
白虎が受け止める。
その衝撃で地面が割れた。
――その時だった。
ゴロゴロゴロ……
空が鳴った。
二人は一瞬だけ空を見上げる。
雲一つなかったはずの空。
しかし今は白い光が空を覆っていた。
「なんだ?」
白虎が眉をひそめる。
直後。
轟音。
世界が真っ白に染まった。
――――
気が付くと。
二人は見知らぬ場所に立っていた。
荒れ果てた畑。
ボロボロの家々。
痩せた村人たち。
どう見ても江戸ではない。
影虎が周囲を見渡す。
「どこだここは?」
白虎は刀を抜いた。
「どうでもいい。さっさと決闘だ。」
その時。
村人たちが歓声を上げた。
「成功したぞぉぉぉぉ!」
「勇者様だ!」
「勇者様を召喚できたぞ!」
「見た目も強そうだ!」
涙を流して喜ぶ者までいる。
やがて一人の老人が前へ出てきた。
村長だった。
「またれよ!」
村長は両手を広げる。
「お主たちは勇者としてここへ召喚されたのだ!」
「我々の世界を救うために戦うのだー!」
白虎。
「知るか。」
村長。
「え?」
影虎。
「興味ない。帰り道はどこだ?」
村長。
「え?」
村人。
「え?」
しばし沈黙。
村長は慌てて話を続けた。
「いや、少しぐらい話を聞いてくれてもいいんじゃない?」
「勇者だよ?」
「皆の憧れの勇者だよ?」
白虎。
「知らん。」
村長。
「いやいやいや!」
「ここはどこだとか!」
「なんで召喚されたのとか!」
「勇者ってなに?とか!」
「いろいろ聞くことあるでしょっっっ!」
白虎。
「知らん。」
そして鋭い眼光を向ける。
「偉そうだな貴様。」
「斬るぞ。」
村長。
「すみませんした!」
村長は即座に土下座した。
(……なんか……怖いなこの人……。)
村人たちも顔を引きつらせる。
(思ってた勇者と違う……。)
村長は震えながら立ち上がった。
「と、とにかく!」
「話だけでもきいてくんない?」
「ね?」
「お願い!」
「お願いします!」
影虎は腕を組む。
「話だけでも聞いてやろうではないか。」
「何やら困ってそうだ。」
村長。
「さすが!」
「黒い人は話がわかる!」
その瞬間。
白虎が睨む。
「俺は影虎との決着を邪魔されて気分が悪いんだ。」
「今すぐにでもお前たちを斬ってやりたいぐらいだ。」
村長。
「ひっ。」
(もうこの人、悪党じゃん……。)
(全然勇者じゃないじゃん……。)
影虎はため息をついた。
「まあ、少し待て。」
「事情を話されよ。」
村長。
「あ、はい。」
(顔は怖いけど、この人は優しいな……。)
村長は深呼吸した。
そして語り始める。
「実は、この世界は魔王軍と竜王軍に支配されているのです――」




