(2-3)感情のありか
「まさか、ユリちゃん。忘却魔法が効かないなんてなあ・・・。魔力がなさすぎるのも困りもんや・・・。」
そこにいる少女はもう台本など必要としていなかった。そして、自身に強大な魔力を漂わせていた。
「おかげであんたらの目的を忘れさせる計画もご破算や。どないしてくれる?」
「も、目的を忘れさせる・・・?まさか、俺たちが何のために来たのかを知っていたのか?」
「正確にわかっとるわけやないけど、死人の墓を掘り起こすような下品なことやとは思っとるよ。」
「そ、そんなことはない。ただ、君の死因を理解したかっただけだ!それは君にとっても家族にとっても良いことになる!」
「ちょ、ちょっとおじさん!熱くなったからって情報言い過ぎっ!」
「あっ、」
「死因?」
ユーノは作品の中の人物だ。現実のことについては知らないはず。それを認知してしまうと何かとんでもないことが起きてしまうのではないか。
「おい、それは未来の話か。答えろ。」
「え?それは・・・」
ごまかすしかないか・・・。
「未来の私は死ぬのか。答えろ。」
この圧は、、、答えないと殺される圧だ!?しかし、ここは一回死亡してでも沈黙を貫くしか
「おじさん答えて!」
ユリが叫んだ。どうして答えてとユリは叫んだ?俺が死なないようにか?いやユリはそうだ。合理的だ。何か理由が。そうか、ユーノの言っている未来での死亡はこの作品内の話。だったら答えても問題ない。
「死亡したかしていないかさあ答えろ!」
「死亡した!!!」
とっさに俺は答えた。しかし、冷静に考えたら。この作品でユーノが将来死亡するかどうかはわからない。焦るあまり、返答が現実での未来とごっちゃになっていた。
ユーノは口を開いた。
「そうかあ。私、死ねたんやなあ。」
それは不気味な笑みだった。
「どうやった?ちゃんとトラックに飛び込んで死ねてたか?」
「は?」
いや、どういうことだ。いや待て、ここは作品内の世界だ。作品内の死亡の原因と現実の原因は関係ない。そうだそうだ。焦った・・・。
「おじさん。まずいことになったね。」
「・・・何が。現実の死因とこっちの死因は違うぞ。」
「いや、死因は違くてもさ。作者の考えと作品の登場人物はリンクしている。名前だって柚野とユーノでほぼ一緒だからね。ってことはさ。現実でも自殺願望を持っていた可能性が高いよ。」
「・・・うそ・・・だろ。」
「正直、ミッションは失敗の可能性が高い。」
「えーなー。なんなら予定より早めてもう死のかな。羨ましなってきたわ。」
「お、おい。何言ってんだ!」
「つーことで、あんたら邪魔やわ。記憶も失わんかったし。はよいね。」
そういった直後、ポケットから大量の召喚札を取り出した。
まずい、俺はとっさに叫び、召喚札を自分のポケットから出し、開ける。
「バードウルフ、来い!」
ぼふん!白い煙と共に巨体が登場する。俺はほっと息を吐いた。
「なあ、その召喚札。私が渡したもんなのになんも細工しとらんと思うか?」
「なに!?」
そういわれると。バードウルフの目つきがおかしい。耳はたれ、口からよだれも・・・。次の瞬間、その巨体は大きくなった。いや、正しくは大きくなったのではない。それが近づき視界を埋め尽くしたのだ。俺の想像のしなかった行動パターンに頭が真っ白になった。
「おじさん!!!」
ユリが身代わりになって腕をかまれた。
俺は絶句して言葉を発せなかった。目の前の状況に頭の容量が支配された。
だからだろう。背後から魔物で攻撃されても気づかなかったのは。
ーーー
「っは!!!」
目が覚めた。びしょびしょに濡れた地面に不快感を感じた。
「大丈夫か!?」
突然聞こえてきた関西弁に防御態勢になる。
「ど、どした。まだ混乱しとるん?またお茶持ってくるしな。」
その言葉で柚野のお母さんだと思い出す。そ、そうか。俺は敗北して現実に帰って来ちまったのか。
「ユリは!?」
「ユリさんなら柚野さんの部屋でヒントを探しているようです。」
そう清水さんが答えた。落ち着いているこの人を見るとようやく現実に戻ってきたという実感がわいてきた。
ともかく、急いでユリと話し合わないと。
「お、おい!」
急に俺の腕が捕まれ、動きが止まる。
「どんな状況だったんだ!?柚野と話せたのか!?おい!?」
宗次さんが乱れた表情で問いかける。俺は黙りこくってしまう。
「なあ、あの子も何も答えないし。ほら、やっぱり詐欺なんじゃないのか!?」
「・・・それは違います。ただ、柚野さんは取り乱しているようで、今回会話はできませんでした。」
「・・・さあ。どうだかね。」
宗次さんは不審な目でこちらを眺めている。今回の仕事が取り消しになる前に、決着をつけないと。
俺は宗次さんに柚野の部屋を聞き、中に入った。
そこは女の子の部屋らしいぬいぐるみたちと、配信者であるからか機械製品とが混在した部屋だった。亡くなってからしばらく経っているのに、小綺麗だ。おそらく両親によって手入れされているのだろう。その部屋を乱すものが一人。
「何を探してるんだ。」
「説得のヒント。」
そういって引き出しなどを開け、散らかしては別のところを探している。
「はあ、なんかユリの部屋が想像できたよ」
「それどういう意味?」
「・・・にしてもヒントはありそうか?」
近くにあるPCを起動させながら質問する。
「いや、今のところ全然。あ、そこもう調べた。」
仕事が早いな。
「うーん・・・。ここにもない。」
そういってユリは机の下に潜り込み、奥まで探索していた。
そして、机の上には写真を入れる額があった。
「そうか、前回みたいに写真に入り込めば・・・。あれ?」
その肝心の写真がない。
「そこの写真でしょ?私もそれを探してるの。だからここにあると思ったんだけど・・・。」
なるほどな。しかし、目標が見つかっているなら気持ち的に探しやすいな。
「よっし、、、探すか。」
俺は伸びをして捜索に専念した。
「あれが怪しいな・・・。」
「どれ?」
ユリが両手で肩をつかみ首の横から顔を出した。
「引き出しの下。なにか紙がある。」
「じゃあ、持ち上げよっか。」
「重そうだけど大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。」
そういって胸を張った。ユリの身長の1.5倍あるから心配なんだが。
「別に佳也子さんや宗次さんもいるから無理しなくても」
「ほんとに大丈夫だって!」
ーーー
「ふ、ふんんんんんん!!!」
真っ赤になった顔をさらにゆがませて、力を振り絞っている。声はこれが本当の魔物かというぐらいの唸り声だ。
「よいしょーーー!!!重すぎ!!!止めてよ!おじさん!」
「え!?俺のせい!?」
ユリが手をぶらぶらさせている間に、紙を手に取った。
その紙は少し厚く、つるつるとしていた。肌ざわりからもわかる。フォト紙(写真に使われる紙)だ。俺は期待しつつも裏面をめくった。
小さな少女の右頬にお母さんがキスを、左頬にお父さんがキスをしている写真だ。とても幸せそうだった。
「これが、その写真。とても幸せそう。」
「・・・そうだな。写真の内容からも大切な写真で間違いなさそうだ。」
写真の中に入る作戦を思いついていたが、明らかに重要なピースであるから必要ないと悟った。それに、この写真に入ったとしても柚野もこのころじゃ、悩みなんてなさそうだしな。
「いくか。」
「うん!」
写真を手に持ち、眠りにつくことにした。
ーーー
「ん・・・。」
眠い目をこする。あたりは暗く、天まで届きそうな鉄の柱が何本も立っている。
「ここは・・・最初来たとこか。今回は寝ておく心配はなさそうか?」
「ない・・・というかみすみす餌食になる気?」
ユリは上体を起こしながら返答した。
『残り二回』
「んぐ・・・。久しぶりに謎のカウントを聴いた気がする。しかし、時間じゃなくて回数・・・毎回思うけどなんのだよ。」
「え?おじさん知らないの?ほんとに依頼こなしてた?」
「こなしてたよ!?てか、ユリには見当ついてるのか?」
「うん・・・。これは死亡回数だよ。」
「死亡回数!?そんなものが。」
「死ねる回数は三回。さっき死んだから残り2。」
「2回・・・。二回とも死んだら?」
「・・・この世界に閉じ込められる。死ぬこともできず、永遠にね。」
「な・・・。なんだよそれ。」
「だから最初に行ったじゃん。どうなっても知らないよって・・・。」
「先に言ってくれれば・・・。」
「ごめん、知ってると思って・・・。」
「ええこと聞いたわ。三回死んだら・・・。なんやって?」
!?
「魔のエネルギーでとるから来てみたら・・・おっちゃんやったか。確かに筋良かったもんな。」
「まさか、一回目の時もそうやって・・・。」
「さあなー。て、一回やっても死なんて。どういうからくりかは知らんけどやな。幸い弱点は得たで。」
「くそっ、、、ユーノ。お前に聞きたいことがある。」
「なんや、手短に言うてみぃ」
「本当にあの時の魔物退治の被害者の女の子がお前だとしてだ。最初のミッションの帰りのお前は笑っていた。その後のミッションも前よりも感情豊かになっていた。なら、なんでこうなったんだ?」
「・・・ま。最初の方はちゃんと感情出しとったわ。」
「最初の方は?」
「最初の時は親が離婚寸前やってん。感情出して、離婚取りやめにしてくれたわ。そこから楽しい時は思いっきり笑って、泣きたいときになく。笑うときはみんな楽しそうにしてくれたし、泣くときは心配してくれたわ。でも、ある日ぃな、少しつらくなった時にな。私って迷惑かけてばっかや思うてん。そんでな。また嘘ついて辛くても笑顔にしてん。そしたらみんな喜んでくれたわ。笑顔が私の象徴になった瞬間や。」
「そう思った時こそ、一回目以降の助けたお前ってことか。」
「ま、そういうことやな。」
二回目以降助けたとき、あいつは笑顔だった。でもそれがまた感情を閉じた合図だったとは。しかも、気づきにくい今度の方がたちが悪い・・・。
「笑顔じゃない私は私ちゃうわ。手のかかる本当の私は必要ないねん。」
「そんなの絶対ウソ!ユーノちゃんは私の知る限り、恥ずかしがり屋だけど、とってもいい子だったよ。」
「く、そんなのも全部全部嘘っぱちや!」
少しひるんでいるのが見えた。もしかして俺たちに見せていたのは真に素の彼女だったのだろうか。
「しぶといやっちゃ。もっかい、いね。」
だとしたら彼女には全然感情が残っている。
「おい!これを見てくれ!お前とその家族との写真だ!」
瞳が一瞬揺らいだ。それは光明の光かに思えた。
「ずいぶん昔の引っ張り出してきたなあ。そりゃ、私がこっぱずかしくてどけといた奴やわ。」
何!?まだ、だめなのか。
「く、くそ!」
「お願い!ユーノちゃん!」
「いくら話しかけても無駄や。」
「せ、せめてパスワードだけでも・・・」
「おじさん!そんなの気にしてる場合じゃないよ!」
「ん?ああ。パスワードか。ほんならたぶんYN.25やろ。」
「え?」
「何しようとしとるんか知らんけど、そのぐらいで解決せんのちゃう?」
じ、事実だ。パスワードを知っても、佳也子さんや宗次さんがショックを受けるだけで終わる。しかし、だからといって死因を変えられるわけがない。でも、パスワードを得ることが目的ならこれでいいのか・・・。いいのだろうか?
「おじさん・・・。」
「ああ。すまん。考え事を・・・。あれ?ユリ?」
声の聞こえた方にユリの姿はない。あるのは血だまりと魔物だけ。
くそ、!俺は銃を持った。襲い掛かる魔物。乱射する銃。しかし、手ごたえはなかった。
次の瞬間、再び意識は途切れた。
ーーー
「っは!!!」
相変わらずの冷や汗、それが地面と混ざった嫌な心地。間違いなく現実だ。
「おい!ユリは!?」
「ここ。」
そういって隣であぐらをかいているユリを眺めた。
「早く来て。」
「ああ、わかった・・・。」
俺は今回の依頼の目的を失いながらも、返答をした。
柚野の部屋に行く際、宗次さんの冷たい視線がいたかった。しかし、そんな目をされても俺には動画を見せることはできない。
柚野の部屋につくなり、ユリは柚野のスマホを取り出した。おそらく、この部屋に移動したのは捜査しているという名分の元、二人で動画を確認するためだろう。
「YN.25・・・ほんとだ。」
沈黙していた黒が動き出した。
「見てる?お母さん。お父さん。」
それはビデオメッセージの様だった。片付けられた自分の部屋で、撮影されている。もしかしてこの部屋が変に小綺麗だったのも、死ぬ直前に掃除をしたからか?
「わたし・・・実は・・・。」
そこからのいきさつはほぼ同じだった。理由にアンチコメントの話が追加されていたぐらいだろうか。
「わたし、迷惑ばかりかけた・・・。ごめん」
そんな言葉が何度も何度も出てきた。謝る必要などどこにもないのに、何度も何度も。
なぜだろう。もう一度対話をしたい。
それは、この任務にできることはないと思っていたのに、気持ちに反して沸く感情。憤りだった。
迷惑だと・・・?
「こっから俺は何ができるかな。」
とっさに聞いていた。いてもたってもいられず。
「実は・・・。私。とっておきの秘策があるんだ。」
「なんだそれ。」
「でもそのためには柚野ちゃんを説得して落ち着かせないとなんだけど、」
「ああ。わかった。俺がすぐに用意しよう。」




