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魔力なしの出来損ない令嬢ですが、不眠公爵様に溺愛されています  作者: 甘夏 みみ子@5/22発売!白い結婚の旦那様と紡ぐ、最後の一ヵ月


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50話 あなたを呪ったのは①

 

 数日後の朝食時のこと。

 ヴィクター様が席をたったタイミングで、オリバーさんが私の顔をじっと見つめていた。


「……なんですか、オリバーさん」


 私が聞くと、オリバーさんは少し迷うような顔をしてから、おもむろに口を開いた。


「実は、アリス様に聞きたいことがありまして」

「なんですか?」

「王太子殿下の結婚式で、何かあったのでしょうか」


 私は、思わずパンを喉に詰まらせそうになって「ぐえ」と変な声をだしてしまう。

 慌てたオリバーさんに水を飲まされて、何とか飲みこんだ。


「な、なんでですか」

「ヴィクター様に伺ったのですが、何も教えてくださらなくて」


(そりゃ、そうでしょうね)


 あの日以来、ヴィクター様と私は絶妙な距離感を保っていた。例えるならそう――付き合いたての恋人同士のような。


 今までは、抱きしめても横で寝ても、少しドキドキするだけだったのに。


 オリバーさんが、困ったような顔をする。


「それに、あの日以来、ヴィクター様のご様子がいつもと少し違う気がして。なんといいますか……その、穏やかといいますか」

「そ、そうですか」

「アリス様も、お顔が赤いですよ」

「気のせいです」


 私が即答すると、オリバーさんはにっこりと微笑んだ。


「そうですか。……まあ、お二人が仲睦まじいのであれば、それで十分でございますよ」


(この人、分かって聞いてきてる!)


 私は顔を覆って、テーブルに顔を伏せた。


「かっ、からかうのも、いい加減にしてください!」

「善処いたします」


 全く善処する気がなさそうな笑顔だった。


 ◇


 今日の私は暇だった。

 上級生たちは全員合宿で王都に出向いてしまい、魔道具を借りに来る人間なんていないのだ。


 というわけで、備品庫には暇を持て余したいつものメンバーが集まっていた。

 空きコマで自由時間のリオとリラ、そしてレイア先生だ。


(二人はさておき、レイア先生はいっつも居座っている気が……)


 私が紅茶をいれると、いつもはお喋りなリラが珍しく黙っている。


 いつもはリオとじゃれ合っているのに、今日はぼんやりとカップを見つめたまま、何かを考え込んでいるようだ。


「リラ、どうかしたの?」


 私が聞くと、リラはぱっと顔を上げる。それから、少し迷うような顔をして、おずおずと口を開いた。


「……好きな人が、いるんです」


 備品庫が、しんと静まり返った。


 レイア先生は、ニヤニヤとしながら身を乗り出した。

 彼女はこういう話が大好きなのだろう。


「……誰なの?」

「先輩、なんですけど」


 リラの頬が、じわりと赤くなる。

 新入生は、上級生とペアを組む魔法実習の授業がある。そこで、一緒になった先輩のことが気になっているのだという。


「全然振り向いてくれなくて。私のこと、眼中にないんだと思います」

「……」


 リオが、珍しく神妙な顔をしている。双子だからか、妹の告白に少し居心地悪そうだ。


「リオは男子としてどう思う?」

「……どう思うも何も、そもそもリラは何も行動してないよね?」

「挨拶してるもん!」


 どうやら、リラは先輩とどう距離を縮めればいいのかわからないらしい。

 好きな人がいるのに、それ以上の一歩が踏み出せない。なんだか、他人事には思えなかった。


「まあまあ、簡単な話じゃない」


 レイア先生が、にっこりと微笑んだ。

 彼女のこういう笑顔は、たいていろくなことを考えていないと最近になって分かってきた。


「……惚れ薬を作ればいいのよ」


 ビンゴだった。


「……先生、そんなものが本当にあるんですか!?」

「材料さえ揃えれば、あたしくらいになると朝飯前よ」


 興奮するリラに対して、私とリオは首を傾げてレイア先生を見つめる。


「飲んでも大丈夫なんですか」

「死にはしないから大丈夫よ」

「死なない、って言い方が引っかかります……!」


 リオが、盛大にため息をついた。

 腕を組んで、いかにも冷めた顔だ。

 だが、当のリラはかなり乗り気らしく、レイア先生に深々と頭を下げている。


「お願いします! 私に惚れ薬の作り方を教えてください!」


 レイア先生が、満足そうに頷く。こういう展開を、最初から狙っていたような気がしてならない。


「じゃ、アリスとリオも手伝ってね」

「なんでそういう理屈になるんですか……」


 納得できないまま、なんとなく流れで引き受けてしまった。


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