43話 本当に大切なこと①
屋敷の魔道具庫に、ここ最近はずっとこもりっきりだ。
食事も全て魔道具庫で済ませている。
オリバーさんが持ってきてくれるサンドイッチを、片手で食べながら本を読む。
(犯人を捕まえて、絶対に術を解いてもらう)
本のページをめくる。
呪いの種類、呪いのかけ方、呪いの解き方。難しい言葉ばかりで、頭が痛くなる。
けれど、諦めるわけにはいかない。ヴィクター様のために。
ヴィクター様とも、ほとんど顔を合わせていない。朝、すれ違った時に挨拶をするくらいだ。
ヴィクター様は、いつも何か言いたそうな顔をしている。けれど、私が忙しそうにしているのを見て、何も言わずに去っていくのだ。
(寂しい……)
本当は、ヴィクター様ともっと一緒にいたいと思う。けれど。
(王太子殿下の調査も進んでいないようだし、私が頑張らなきゃ)
生きている人間の中で、ヴィクター様の周囲と関わりを持った人間を教えて欲しいと王太子殿下に手紙を送ると、進捗報告の手紙が届いた。
ヴィクター様の身辺を洗っている最中だそうだが、これと言った目新しい情報はなさそうだった。
(ヴィクター様の呪いを解きたい)
本によれば、呪いをかけた者が解くか、呪いをかけた者が死ぬか、呪いの条件を満たすか。その三つしかないのだという。
ため息をついた。
呪いをかけた者が誰かもわからないのに、どうすればいいのだろう。
窓の外を見ると、もう夕方になっている。
最近は、1日が過ぎるのが早すぎる。
(……時間が、足りない。1日が100時間あればいいのに)
机に突っ伏した時、扉が開いた。
「何かお悩みですか」
オリバーさんの声だ。
顔を上げると、お茶を持った彼と目が合う。机の上にカップを置いて、近くにあった椅子に座った。
「ここのところ、ずっとヴィクター様と顔を合わせていないでしょう。おひとりで何を悩まれているんですか」
「……それは」
私は言葉に詰まった。
すべてを話すわけにはいかないけれど、一人で抱え込むのも限界だったらしい。
「呪いについて、調べていて――」
話し出すともう止まらなかった。
王太子殿下から呪いの鍵となる情報をもらったこと。それを調べるために、ヴィクター様に内緒で魔法学校や魔女様の元に行っていたこと。
呪いについての理解を深めるために、ずっと魔法の勉強に打ち込んでいたこと。
オリバーさんは、黙って聞いている。それから、静かに口を開く。
「なるほど。だから、最近はこそこそと行動されていたと」
「うう……、すみません」
私がしおしおと謝れば、オリバーさんは「大丈夫ですよ」と笑ってくれた。
「ヴィクター様は、もちろん呪いを解きたいと思っていると思います。けれど、それ以上に」
オリバーさんが、真剣な目で私を見つめる。
「愛し合っている貴女との時間を大切にしたいのではないでしょうか」
「……!」
その言葉に、はっとする。
私は、ヴィクター様のために呪いを解こうとしている。けれど、そのせいで、ヴィクター様との時間を犠牲にしていた。
(せっかく、想いが通じ合ったのに……)
私は、ヴィクター様が買ってくれたネックレスに手を置いた。
「最近、ヴィクター様はとても寂しそうです。まるで、アリス様が来る前に戻ったかのようで」
ヴィクター様は、「寂しい」なんて一言も言わなかった。私が忙しそうにしているのを見て、邪魔しないようにしている。
(でも、本当は……?)
ヴィクター様は素直じゃない。
私の部屋に来てまで話しかけていたのも、寂しかったからなのかもしれないと思うと、胸が痛くなる。
「そろそろ夕食のお時間です。今日はいらしてくださいね」
私は頷いて、本を閉じた。




