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魔力なしの出来損ない令嬢ですが、不眠公爵様に溺愛されています  作者: 甘夏 みみ子@5/22発売!白い結婚の旦那様と紡ぐ、最後の一ヵ月


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42話 「不眠の呪い」を解くために④

 

 今日の私の予定は決まっていた。

 オリバーさんに内緒で手配してもらった馬車を使って、私は森へと向かっていた。


 木々の間を抜けて、やがて、小さな家が見えてくる。

 

「魔女様、私です。アリスです」

「入れ」

 

 しわがれた声が聞こえてきて、私は扉を開くおいつもと変わらず、魔女様はそこにいた。


 ぼんやりとキャンドルが灯る中、私は魔女様の対面に腰掛ける。


 「今日はなんだ」

「……術者が死んでも、呪い続けるにはどうすればいいんでしょうか?」

「は? お前は誰かに呪いをかけるのか」

 

 魔女様は珍しく驚いたようにそう言った。

 

「ち、違います……!」

「では、前提から話せ馬鹿者」

 

 呆れた声でそう言われる。


 ずっと思っていたが、魔女様と話しているとなんだかヴィクター様を思い出す。


(偉そう……というか、尊大……というか)


 やはり偉大な魔法使いは、似たような態度になるものだろうかとくすりと笑えば「笑うな」と魔女様からお怒りが飛んできた。

 

「ええと、ヴィクター様の呪いは……人間がかけたものなんですよね」

「……そうだな」

 

 魔女様は、隠すことも無く意外とすんなりと答えてくれた。

 

「……術者が死んでも、呪いが残っているってどういうことなんでしょうか」

「はあ?」

 

 魔女様は、呆れたような声を出してローブの下から私を見つめた。

 

「なんでお前は死者が呪いをかけたと思っているんだ」

「え……?」

「死んだら呪いは解ける。所詮は人間が生み出した魔法の悪用法に過ぎない」

「それは知っています!」

 

 それは先日レイア先生から聞いたことだ。


 だから、私はここ数日、必死に死んでも呪いが残る方法について調べていたのだ。


 先代公爵が亡くなっても、ヴィクター様を呪い続けることができた方法を。

 

「死者がヴィクターを呪っているのであれば、あいつはぐっすり寝ている」

「じゃあ、なんでヴィクター様の呪いは解けないんですか!」

「……それは、術者が生きておるからだろう」

 

 私は、全身の力が一気に抜けて椅子にもたれ掛った。

 

(え……)

 

 思ってもみなかった答えだった。


 よく考えれば、レイア先生も私にそう伝えたかったのかもしれない。

 

「普通に考えたら分かる話だろう」

「いや、でも……それって……」

 

 先代公爵は亡くなっている。

 それは明らかな事実で。

 つまり、魔女様の言葉が意味するのは……。


(……犯人は、他にいる)


 ヴィクター様の周りの人間を思い浮かべる。


 皆いい人達ばかりで、ヴィクター様に呪いをかけるような人間はいない……と思いたかった。

 

「魔女様は知っているんですよね!?」

 

 私が叫ぶと、魔女様は黙りこんだ。

 

「教えてください!」

「馬鹿者」

 

 その声には、怒りが滲んでいる。

 

「それを聞いてどうする。術者を殺しにでも行くのか」

「殺し……っ」

 

 殺すのは、私には無理かもしれない。

 それでも犯人を突き当てれば、『真実の愛』とやらの手がかりが掴めるかもしれない。

 

「お前のやることは、犯人捜しではなく――」

 

 魔女様が言いかける。

 けれど、私は既に走り出していた。

 

「ありがとうございました!」

「おい!」

 

 魔女様の制止も聞かずに、家を飛び出した。


 一刻も早く、犯人を捜さなければ。

 私の頭の中はそのことでいっぱいだった。

 

 ◇

 

 深夜、勉強していると、自室の扉がノックされる。


 こんな時間に誰だろうと私は、ペンを置いて立ち上がった。

 

「……今日も勉強か?」

 

 扉を開けると、ヴィクター様が立っていた。


 いつもの不機嫌そうな顔だけれど、どこか心配そうな色が浮かんでいる。

 

「はい」

 

 私が答えると、ヴィクター様は珍しく部屋の中に入ってくる。


 机の上には、魔法の本が山積みになっていた。


 呪いについての本、魔法陣についての本、古代魔法についての本。


 それらを片っ端から読み漁っていた。

 開きっぱなしの本、メモ書きだらけの紙。机の上は、すっかり散らかっている。

 

「……もう、こんな本を読んでるのか」

「えへへ」

 

 ヴィクター様が、一冊の本を手に取る。


 古代魔法について書かれた、かなり難しい本だ。中をぱらぱらと読んだ彼は、少し驚いたような顔をする。

 

「理解できているのか、これ」

「はい、なんとか」

 

 ヴィクター様が、感心したように私を見る。

 

「そうか。頑張ってるな」

 

 褒めていてくれているけれど、ヴィクター様の表情は、どこか複雑だ。

 

「そんなに頑張らなくてもいい」

「……駄目なんです。全然足りないんです。もっと頑張らないと」

 

 私は、首を横に振る。

 私の知識はせいぜい、魔法学校に入学できるかも怪しいレベルだ。こんな調子では、『真犯人』を見つけることすらできない。ヴィクター様を助けることなんて、できない。

 

「そんなに」

 

 ヴィクター様が、息を吐くかのように、ぼそりと呟く。

 

「……何が、そんなにお前を駆り立てているのか。俺には教えてくれないんだな」

「え?」

 

 小さい声だからあまり聞き取れなかった。

 私は、顔を上げてヴィクター様に聞き返す。

 

「どうされたんですか?」

「……いや、なんでもない」


 そう言って、ヴィクター様は本を机に戻す。

 

「じゃあ、おやすみ」

 

 ヴィクター様が、部屋を出ていく。その背中は、どこか寂しそうで。


 扉が閉まる音がして、私は一人になった。

 

(……切り替えなきゃ)

 

 私は、また机に向かう。


 ヴィクター様は、何か言いたそうだった。

 私が、隠しごとをしているのに気づいているのかもしれない。

 

(だけど、今は話せない)

 

 ヴィクター様を心配させたくないのだ。

 私は、再び本を開いた。

 

 もっともっと頑張らなきゃ。ヴィクター様のために。


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