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魔力なしの出来損ない令嬢ですが、不眠公爵様に溺愛されています  作者: 甘夏 みみ子@5/22発売!白い結婚の旦那様と紡ぐ、最後の一ヵ月


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41話 「不眠の呪い」を解くために③

 

 私は、断崖絶壁がそびえ立つ門の前にいた。

 

「あのう、やっぱり駄目なんでしょうか。ヴィクター様の婚約者なんですが……」

「駄目です」

 

 兵士にぴしゃりと断られ、私はがっくりと項垂れた。

 私は魔法学校の門の前にいた。

 魔法学校に行くつもりだったのだが、私はあえなく門前払いをされてしまっていた。

 

(この前はヴィクター様がいたから、顔パスだったんだ……)

 

 当然、私は魔法学校の部外者なわけで。


 しっかりと職務を全うする門番さん対、部外者の私の睨み合いが続いていたその時だった。

 

「……あら、魔力なしの子猫ちゃんじゃない」

 

 凛とした声が響いた。

 振り返るとそこには、まさに私の会いたかった人物が立っていた。

 

「レ、レイア先生……っ」

「なあに? 子猫ちゃん。もしかして私に会いに来てくれたの?」

「そうなんです!」

 

 私が答えると、レイア先生が妖艶な笑みを浮かべて近づいてきた。


 そのままぎゅうと抱きすくめられ、豊満な胸が私の頬に当たり、甘すぎる香水の匂いで頭がくらくらしてくる。

 

「通して。私の大切な子よ」

「は、はい!」

 

 なぜか門番も頬を染めており、慌てて門を開いた。


 そうして、門を潜ったレイア先生は箒なんか出さずに、私をお姫様のように横抱きにすると、ひゅうと空を飛んだのだった。

 

 ◇

 

 私が連れてこられたのは、職員塔にあるレイア先生個人の部屋だった。


 部屋の中には、何に使うのか分からない魔道具が沢山ぶら下がっており、天井では天球儀がせわしなく動いている。

 

「はい、どうぞ」

 

 彼女は、私にお茶をだしてくれたのだが、真っ青な液体の中にキラキラと星のようなものが漂っている。


 綺麗だが、私の知っているお茶とはあまりに違うため、飲むのを躊躇しているとくすりとレイア先生が笑った。

 

「騙されたと思って飲んでみて」

 

 恐る恐る口を付けて見れば、口の中にブルーベリーのような甘い味が広がった。

 

「わっ、信じられないくらい美味しい……!」

「お口に合ったようで良かったわ」

 

 それに、口の中でぱちぱちと何かがはじける音がする。不思議な感覚だった。

 さすが魔法使いの出すお茶である。

 

「それで、私にどんなご用があったの?」

 

 レイア先生は、うっとりするような笑顔でこちらを見つめてくる。

 見惚れそうになりながらも、私は本題を思い出す。

 

「レイア先生って、先代公爵様を知ってらっしゃるんですよね」

「ん? ええ」

 

 私が知っている人物で、先代公爵を良く知る人を思い浮かべた時に出てきたのがレイア先生だった。


(なんと言ったって、先代公爵の担任の先生だもん)


 彼の学生時代も知っているのだから、事情を聴くならこの人以外いないと思ったのだ。

 

「もしかして、あの男の話を聞きにきたの? 私に会いに来てくれたわけじゃなく?」

「も、もちろんレイア先生にも会いたいって思ってました」

「あら嬉しい」

 

 レイア先生は両手を頬に添えて、可愛らしく微笑んだ。

 彼女には、もしかすると魅了魔法がずっとまとわりついているのではないかと思ってしまう。


「そうねぇ……」と思い出すようにレイア先生は足を組んだ。

 

「……あの男は、効率主義者ね。つまらない男だったわ」

「効率主義者?」

「そう。魔力量が全てだと思ってたみたいね。術を磨くその時間すら惜しくて、その時間で少しでも魔獣を倒した方が効率的だと思っていたみたい」

 

 レイア先生は、ティーカップに口を付けた。

 

「ただ私から言わせればナンセンスね。魔法の面白さがまるで分かっていない」

 

 レイア先生はふうと息を吐いて、私を見つめたあと、にっこりと目を細めた。

 

「ヴィクターも幸せね。呪いを解くために奔走してくれる婚約者がいて」

「な、なんでそれ……」

「顔に書いてあるわよ」

 

 私はぎくりと肩を震わせた。


 レイア先生には、一言も呪いの話はしていないはずなのにどうして分かってしまうのだろう。

 レイア先生は、そんな私にさらに追い打ちをかけた。

 

「もしかして、呪いは人為的に生まれたものだって知っちゃったのかしら。それで先代公爵のことを疑っているとか?」

「……」

「嘘をつくのが下手なお嬢さんねぇ」

 

 不安になるわぁ、と漏らした彼女は面白がるように笑った。

 

(この人に隠しごとをするのは無理なのかもしれない……)

 

 しかし、バレてしまったのなら仕方がない。

 私は開き直ってレイア先生を真っすぐ見つめた。

 

「そうです。私はヴィクター様の呪いが解きたいんです。正直なところ……先代公爵を疑っています」

「そう」

 

 レイア先生はゆっくりと目を伏せた。

 

「一つ助言をしてあげたいんだけど――アリスちゃん、これからも仲良くしてくれる?」

「も、もちろんです!」

 

 私は勢いよくその場に立ち上がった。

 その言葉に、レイア先生は満足げに頷いた。

 

「残念ながら、呪いは専門外なのだけど」

 

 レイア先生はぎゅっと私に顔を寄せて、人差し指で私の顎をすうっと撫でる。

 

「――術者が死ぬと、呪いは解けるのよ」

 

 ◇

 

 あれから数日が経ったけれど、私の頭の中はこんがらがったままだった。

 

(どういうことなんだろう……っ)

 

 私は朝食のパンを食べながら、頭を悩ませていた。

 食卓のテーブルには、魔法の本が高く積み上がっている。

 

「おい」

 

(先代公爵はすでに亡くなっているから、レイア先生の言う通り呪いは解けているはず)

 

 だが、実際ヴィクター様は今も眠れないままで、これは変わらない事実である。

 

(つまり、何かしらの方法で呪いだけ残ってしまったのか……)

 

「おい」

「……あとで、本を読みなおそうかな。確か昨日読んだ本に書いてあった気が……」

「おい、聞こえているのか」

「はいっ!?」

 

 私が顔を上げると不機嫌そうな顔をしたヴィクター様と目が合った。

 今日も今日とて、目の下のクマは酷かった。

 

「さっきオリバーが、お前宛ての手紙を持ってきていた」

 

 ちらりとテーブルの上を見れば、相変わらずとてつもない量のお誘いの手紙が来ていた。

 

「ああ……、ちょっと、しばらく社交はおやすみしようかなと」

「は?」

 

 社交の場に顔を出すことも大切だが、今はヴィクター様の呪いを優先したい。


 自分が一人しかいないことをこんなに悔やむ日が来るなんておもってもいなかった。

 

「最近どうしたんだ。俺よりも顔が疲れているんじゃないか」

「……そんなことないです」

 

 私は首を振って否定したけれど、ここ数日は本を読んだり、先代公爵の情報を探ったりで寝不足になっていたのは事実だった。

 

「何か悩み事があるなら、話してみろ」

 

 きっとヴィクター様は、優しく私の話を聞いてくれる。


 呪いをかけた犯人だって、瞬時に突き当ててしまうに違いない。

 

(でも、これ以上、ヴィクター様を傷つけるわけにはいかない)

 

 私はヴィクター様が大好きだ。


 だからこそ、彼の知らないところで呪いのことを解決してあげたいと思う。

 

「最近、魔法の勉強をしていて分からないことが多くて……」

「勉強なら、教えてやる」

「ヴィクター様もお忙しいと思いますので、大丈夫です」

 

 私がそう言えば、ヴィクター様はなんだか残念そうに溜息をついた。

 

「わかった。今日は遅くなる」

 

 そう言ってヴィクター様は立ち上がった。

 

(……ごめんなさい)

 

 私は心の中で謝ると、彼の背中を見送ったのだった。


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