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魔力なしの出来損ない令嬢ですが、不眠公爵様に溺愛されています  作者: 甘夏 みみ子@5/22発売!白い結婚の旦那様と紡ぐ、最後の一ヵ月


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39話 「不眠の呪い」を解くために①

 

 例の本を無事に王太子殿下に送ってから、はや一ヶ月。

 

 私はというと、魔法学校で働くために本格的に魔法の勉強を始めた。

 

 いくら魔道具管理だけだと言っても、一応「先生」という立ち位置になる以上、基本的な魔法の知識は不可欠なのだ。

 

 ここ最近は、ヴィクター様が屋敷の書斎から魔法の基礎書を持ってきてくれて、それを読んでいる。

 

 難しい言葉ばかりで、最初は全然わからなかった。

 

 ヴィクター様の講義もちんぷんかんぷんだったものの、少しずつ魔法の種類も分かるようになってきた。

 

(魔法とひとくちに言っても、魔法陣を使う静的魔法もあれば、型に囚われない動的魔法もあるし……)

 

 新しく魔法を開発することも可能だそうで、ヴィクター様は魔法学校の教員たちと日々研究にも励んでいるらしい。

 彼がいつも忙しそうにしている理由がわかった気がする。

 

「よし!」

 

 私は、キリのいいところで本を閉じた。

 今日は、大切なお客様がやってくる日なのだ。

 

「アリス様、いらっしゃいました」

 

 ちょうどやって来たオリバーさんの声掛けで、私は急いで応接室へ向かった。

 そこには、見目麗しい二人が並んで立っている。

 

「やあ、久しぶり」

 

 王太子殿下が、ひらひらと手を振った。

 相変わらず、眩しくて爽やかな笑顔だ。

 

「久しぶり! 会いたかったわ!」

 

 マリアンヌ様が、小走りで私にぎゅっと抱き着いてきた。

 花のようないい香りがする。

 

「それで、アリス。最近はどう?」

 「最近ですか?」

 「お話きかせて?」

 

 マリアンヌ様が、優しく聞いてくれたから、私は、軽く最近の出来事を話した。


 魔法学校に行ったこと。ヴィクター様の授業を見たこと。魔法の勉強を始めたこと。


 マリアンヌ様は、頷きながら嬉しそうに聞いてくれた。

 

「それだけじゃないでしょ?」

「えっ?」

「両想いになったんですって!?」

 

 マリアンヌ様が、嬉しそうに言うものだから私は弾かれたように顔を上げる。

 

「……なんで、それ」

「呪いを解く関係で、ヴィクターから聞いた」

 

 王太子殿下が、にっこりと笑った。

 どうやら、私たちの関係はこの2人には筒抜けらしい。

 

 ソファに座ったタイミングで、オリバーさんがお茶を持ってきてくれた。

 

「ま、でも、結局、不眠ジジイのままかぁ……」

 

 王太子殿下が、残念そうに言った。

 

「というか、当のアイツはどこいったの?」

「魔物の封印が解けてないかの見回りをしてくると」

 

 私が答えると、王太子殿下は少し呆れた顔をした。

 

「僕に会いたくなかっただけだろ」

 

 確かに、ヴィクター様は「王太子が来るなら俺は出かける」と言って出ていった。

 面倒だから、という理由で。

 

 王太子殿下が傷つくだろうから、私は黙っておいた。

 

「まあ、ジジイがいないのは好都合だな」

 

 王太子殿下が、腕を組んで少し真剣な顔になった。

 

「まずは、本をありがとう。本当に助かった」

 

 王太子殿下が、テーブルの上に例の本をことんと置いた。

 私がヴィクター様に内緒で、なんとか手に入れた「第2古語訳」の呪いの本だ。

 

「お役に立ててよかったです。それで何かわかったのでしょうか……」

 

 私が聞くと、王太子殿下とマリアンヌ様が顔を見合わせた。


 少し、沈黙が流れる。

 王太子殿下が、ゆっくりと口を開いた。

 

「もしかしたら……魔獣が呪いをかけたわけではないのかもしれない」

「……えっ」

 

 私は、思わず声を上げた。


 ヴィクター様は魔獣と戦ったあとに、不眠になったと言っていた。

 それなのに。

 

「魔獣は呪いをかけない。本にはそう書いてあった」

 

 王太子殿下が、真剣な顔で続ける。


 「じゃ、じゃあ何が原因で……?」


 動揺したまま殿下にそう聞けば、彼は気まずそうに視線を逸らした。

 

「誰かが――人間が、ヴィクターに不眠の呪いをかけたということだ」


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